作品タイトル不明
46「悩む時だってあるんじゃね?」
午後の授業を聞きながら、夏樹は考えていた。
(――進路か)
正直、あまり考えたことはない。
正確に言えば、異世界に召喚される前は考えていた。
口には出したことはないが、母のような看護師になりたいと。
他にも、公務員や介護職も視野に入れていた。
(異世界に数年いたせいで、かつての自分っていうのを見失っているんだよねぇ。イベントさんが多くて、進路を考える余裕がないっていうか。河童大神様にお仕えするのは仕事じゃないし、ギャラクシー流を修めたからって仕事があるわけじゃないし)
中学一年、二年の夏休みはボランティア活動の一環として、介護施設で二週間ほど働かせてもらった。
食事の介助、話し相手、ちょっとした体操や散歩の付き合いなどだ。
ボランティア学生なのでできる範囲が少なく浅いことは仕方がないが、人手不足の介護施設ではありがたいという話だった。
また入所者の方々もボランティア学生との交流は新鮮で喜んでいた。
夏樹以外にも、高校生、大学生などもきていて、話をした。
介護職は大変だ。
ボランティアの範囲でも思う。
昨年は、一登も一緒にボランティアに参加している。
一昨年に、二週間だけしか来なかった自分を覚えてくれている入居者さんがいたことを嬉しいと思ったのは言うまでもない。
(――問題は、クソみたいな異世界人とはいえ散々命を奪った俺が、医療や介護に関わって良いものかってことかな)
後悔など微塵もしていない。
生きるための行動であり、心が痛んだこともない。
それでも、手は血で赤く染まっている自覚はある。
(はぁ、憂鬱だ。一登もいくつかやりたいことはあるって言ってたけど、本格的に話をしたことは……異世界召喚前にあったな。確か、美容師だったよね)
きっかけは、介護施設にボランティアで来ていた美容師さんとお話をしたことだったと思う。
自身のスキルアップを兼ねているものの、入所者たちは喜んでいた。
そういう誰かに喜んでもらえる仕事をしたい、と一登の中に進路として美容師が加わったことは聞いている。
(ていうか、銀子さんだって立派な公務員なんだよなぁ。普段はあれだけど、こつこつ書類仕事しているし。報告にもちょこちょこ行っているみたいだし)
由良家の妹枠、リヴァ子も動画配信者としてお金を稼ぎ、納税している。
立派な社会人だ。
(サタンさんと、小梅ちゃんは自由人って感じだから違和感はないんだけど。そういえば、三郎さんはお医者さんだったなぁ)
先日、殺し損ねた金童子は、紆余曲折あり介護施設で働いている。
ポセイドンことぽせいさんも釣具店を営んでいるのだ。
月読先生だって、教師をしている。
(……なんというか、神様や魔族の方がしっかりしているなぁ)
頬杖をつき、物思いに耽る夏樹。
――由良夏樹のレベルが1上がった。
そんな夏樹に、突然、声が降ってきた。
「Hvorfor så pludseligt《なぜ急に》!?」
唐突なレベルアップに咄嗟に叫んでしまった。
「由良! 急にデンマーク語で叫ぶな! 廊下でブレイクダンスしていなさい!」
「無理です!」
「じゃあ、反省文だ!」
タイミングが悪く、教師に怒られてしまった。
「…………はぁい」
そろそろ、本気でこのレベルアップの意味を知りたくなってきた。