作品タイトル不明
45「兄弟でお話しじゃね?」
昼休みが終わり、夏樹たちはそれぞれ教室に戻っていった。
屋上に残った月読は、静かに向島市の街並みを見つめている。
この地には、人間も魔族も神も妖怪も、様々な命が営んでいる。
その中で共に生きていけることが幸せである。
月読命が新たな神々を敵視するのは、今の世界を壊そうとしているからだ。
確かに人間は争う。
それは現代になっても変わらない。
理由を変えて、力を変えて、争い続ける。
それでも、月読命は人間を、この世界を愛している。
だからこそ、新たな神話を作ろうとする新たな神々を受け入れられない。
それは、今までの人間たちの営みも否定することになるからだ。
「……ふう」
良き教師であろうと頑張ってきたが、夏樹たちと遠慮なく明け透けに会話ができることは喜ばしい。
少々やんちゃな夏樹ではあるが、さらにやんちゃが身内にいるので、可愛く思える。
「――やあ! すさすさだよ!」
そんな、やんちゃな身内が突然背後に現れて大きな声を出すので、しんみりとしていた空気が霧散した。
「……何をしにきたんですか?」
「つれねえなぁ、兄ちゃん」
甚平姿の、無精髭を生やした中年男性は、素盞嗚尊である。
素盞嗚尊は院の真のトップである。
だが、実際に何かをしない。
人間たちが「踏ん反り帰ってくれればいい」と言ったので、その通りにしている。
実際は、あまり関わらないのが現実だ。
「いやぁ、俺の前世から来世までの親友なっちゃんに、俺の院所属の学校がいらぬちょっかいをかけているって聞いたからさ」
「……彼の才能の一端を知れば、迎えたくなるのは仕方がないことですよ」
「それでも、だ。いきなり不躾に訪ねてくることがないのはいいことだが、その皺寄せが兄ちゃんに行くのもなかなか面倒臭えよなぁ」
「だからと言ってあなたが文句を言うことはできないでしょう?」
「それなぁ」
院の本当のトップが素盞嗚尊であることは、重鎮の中の重鎮しか知らない。
知っていても、他言することは禁止されている。無論、家族にもだ。
かつて素盞嗚尊の存在を知った人間が接触を図ったことがある。
神とお近づきになりたいと思うのならば、仕方がないことだと笑い話になるのだが、その者は神を殺したかったという危険思想だ。
挙げ句の果てに、神を殺して自分が神になりたいという戯言を言う。
厄介だったのが、神殺しを可能とする武器とそれなりの実力を持っていたことだ。
もちろん、人間がどれだけ死力を尽くし、武器を集めても神を殺すことはほぼできない。
素盞嗚尊を殺すことなど、まず無理だ。
戦いにさえならないだろう。
実際に、その人間は素盞嗚尊自らによって蹂躙されて、魂まで破壊されて死んだ。
以後、素盞嗚尊は院に関わることはせず、存在を知るのも最低限にしている。
素盞嗚尊も神だ。
人間を好きなのは変わらない。
長い時間、人間の営みを見守ってきた神でもあるのだ。
「俺のことを知っている奴に、なっちゃんにちょっかいかけるなって釘を刺したんだが……逆に、俺の親友ってことがバレちまってなぁ」
「……あなたね」
「文句を言えないような正攻法で接触しようとする奴が出てきちゃった! てへ!」
その結果が、学校の見学なのだろう。
「だから謝りに来たよ! ――めんご!」
「それが謝る態度ですか?」
「あ、やべ、兄ちゃんが能面のようなイケメンに! これはまずい! すさすさダッシュ!」
素盞嗚尊が逃げ出し、月読命が追いかける。
兄弟の追いかけっこが始まった。