作品タイトル不明
36「静かな朝じゃね?」
朝。
珍しく夏樹は叫ぶことなくゆっくり眠っていた。
「……おはようございます」
「おう、おはようさん。今日は静かだったな」
台所では、ふりふりエプロンを装備しているサタンが卵焼きを焼きながらウインクして朝の挨拶をした。
「うん、レベルアップしなかった。きっと、首なしライダーさんを殺さなかったから経験値が入んなかったんだと思う」
「……そんなゲームみたいな」
「電話ボックスごと怨霊を倒したつもりだったけど、もしかしたら怨霊すら殺せていなかったのかもしれない」
「じゃあ、ただ電話ボックスぶっ壊しただけの困ったちゃんじゃねえか」
サタンの言うように、令和では貴重な電話ボックスを破壊しただけだ。
銀子さんが始末書を書かなければいけなくなった原因でもある。
すべて、怨霊が悪い。
「しかし、エンカウントだけなら怨霊、首なしライダー、新たな神々と毎日大変だな」
「本当にね! マジで一回、整理券配ってエンカウントする順番を決めて欲しいんだけど!」
「それだと整理券を持った奴とは絶対エンカウトするってことだけどいいのか?」
「我慢するよ! 整理券とは言わないけど、せめてアポとってよ! こっちは勉学に忙しい中学生なんだから!」
「……勉学している姿を一度も見たいことないんだよなぁ」
「イベントさんのせいで勉強時間が削られちゃっているんだよ!」
「その言い訳、春子さんには通用しないからちゃんと勉強もするんだぞ」
「はーい!」
ファンタジーがどうこうをしらない母に、ファンタジーイベントのせいで勉強ができないなんて言った日には、ぶっ飛ばされること間違いない。
「今日は学校サボりたいけど、権藤先生に首なしライダーを仲間にしましたって報告しないといけないから……早めに家を出ないと」
「権藤先生もまさか、退治するじゃなくて仲間にするとは夢にも思わないんだろうなぁ」
サタンと談笑しながら、夏樹は朝食の支度を手伝う。
今日の由良家は大家族なので、お米もいつもより多めに炊いている。
茶碗とお椀も、気づけば増えている。
以前から泊まっていた一登のものは当たり前にあるとして、小梅専用、銀子専用、リヴァ子専用、ジャック専用、ナンシー専用、サタン専用が増えた。
千手と虎童子も用意されている。
このノリだと、星熊童子と熊童子、円、そしていずれは祐介たちや東雲たちも勢揃いする日が来るだろう。
「……お茶碗の問題じゃなくて、広さが足りない。サタンさん、そろそろリフォームが必要だと思うんだけど」
「……金的には構わないんだが、春子さんが良しっていうかな?」
「言わないねー」
「それに、夏樹と春子さんの思い出だってあるだろう。家を新しくすることが必ずしも良いってわけじゃないんだぜ」
「そういうものかな」
「そういうものさ。夏樹だって異世界からこの家に帰ってきて、ホッとしただろう?」
「うん」
「大人になると、そういう場所って大事なんだよ。だから、まあ、なんだ。必要がなければこのままでいいのさ」
「なるほど」
「俺の実家だって、まだそのままだぜ!」
「さすがにもうリフォームすれば!? 荒屋でしょう!?」
「神話に出てきそうな結構なお家だよ!」
サタンと会話を弾ませながら、夏樹は朝食をテーブルに並べていく。
すると、匂いに釣られて小梅、銀子、一登が降りてくる。
「おはよー!」
今日も、一日が始まる。