軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35「中学生はいつも金欠じゃね?」

「なんか、疲れた」

帰宅した夏樹は、シャワーを浴びて麦茶を腰に手を当てて一気飲みする。

「ねえねえ、夏お兄ちゃん」

「なんだよ、リヴァ子」

すっかり我が家の妹分に収まった男の娘ことリヴァ子が、タブレットを片手に難しい顔をしていた。

どうやら夏樹がシャワーから出てくるのを待っていたようだ。

「これ、見てくれる?」

「うん?」

タブレットを渡され、再生する。

すると、画面の中には首なしライダーと全力ダッシュしている夏樹の姿があった。

「……静かだと思ったけど、ずっと動画回していたんだね」

「プロだもん」

「さすが! 登録者百万人超え!」

「どやぁ!」

胸を張るリヴァ子の動画から、おそらく夏樹たちに並走して飛んでいたのだろう。

画面ブレがないのはさすがだ。

「でも、どうしてこの動画を見せてくれたの? 記念?」

「ううん。次回の動画は、首なしライダーとダッシュで戦う不審者を発見! って感じで」

「やめてよぉ! あと不審者ってなに!? ギャラクシー河童勇者さんでしょう!」

「ギャラクシー河童勇者はまだ人類には早いよ」

「どういうこと!?」

「そのままの意味だよ。ギャラクシー河童勇者なんて意味わかんない人が出てきたら炎上しちゃうじゃん。ギャラクシーって何? 河童ってなんだよ? って。顔にモザイクは入れておくから、ね?」

「ね? じゃないから! いーやーでーすー!」

「動画の収益の二割をあげるよ」

「――っ」

夏樹は大きく動揺した。

中学生はいつだって金欠だ。

しかも、異世界から帰還してから一ヶ月で靴も服もたくさん駄目にしてしまっている。

服は量販店で流行りのものを安く買うことにしているが、スニーカーだけはこつこつお小遣いを貯めて好きなものを買っていた。

だが、度重なる戦いにより全滅。

下駄箱にはサンダルと、異世界に召喚される前に履いていたくたびれたスニーカーしかない。

そのスニーカーも、今日の全力ダッシュで酷使してしまったので、もう限界だ。

そんな夏樹に、動画の収益をくれるというのだ。

まさに誘惑。

さすが七つの大罪に名を連ねるリヴァイアサンだ。

人間の感情をよくわかっている。

「も、モザイクかけてくれるんだよね?」

動画の収益がどのくらいなのか、さっぱりわからない。

とはいえ、わかりやすい餌を目の前にぶら下げられてしまうと、誘惑をかわす術はないのだ。

「うん。まっかせて!」

リヴァ子は「にたぁ」と笑った。

ちょっと邪悪だったが。満面の笑みだった。

「……夏樹くん、屈しちゃったね」

「一登……俺は、弱い」

こっそり覗いていた一登が残念そうな顔をしていた。

もしかして、目先の欲望に負けたことで幼馴染みをがっかりさせてしまったのかもしれない。

「夏樹くん、屈しました!」

なぜか居間に向かって大きな声で報告する一登に、夏樹が首を傾げた。

「っしゃ! 俺様の勝ちじゃ! おつまみはいただくんじゃ!」

「くっ、夏樹くんがまさか屈するなんて、想定外でしたっす! 勇者なのに! 」

小梅が万歳し、銀子が悔しがる。

「俺も当たったぜ!」

「あたいも!」

「僕もやでー」

星熊童子、虎童子、円もにこりと笑っていた。

「ちくしょう! 由良ぁ! なんでガッツを見せないんだよ!」

「……リヴァイアサンめ、まさか夏樹を金で釣るとは……意外と現金だったんだなぁ」

千手とサタンは悔しがって、缶ビールをくしゃりと潰す。

「あらあら、夏樹ったら。お小遣いは大事に使いなさいよ。ちなみに、私も勝ったわ!」

春子も満面の笑みで、おつまみに手を伸ばした。

「僕も、夏樹くんなら屈すると信じていたよ!」

一登もガッツポーズをする。

「いや、俺で賭けしないでくれます!?」

首なしライダーはとりあえずアルフォンスが預かってくれた。

出前用のバイクに乗れるかどうか、試験をしてくれるらしい。

熊童子はもう眠かったのと、母に熊状態を見せられないということでこっそりリヴァイアサンの部屋で寝ている。

――ぐだぐだなイベントではあったが、このくらいなら良しとしよう。

夏樹は疲れたものの、一日の終わりが笑顔で締め括れるなら良いと思った。

――夏樹と首なしライダーの動画はめっちゃバズった。

そして、その日の夜。

眠りにつく夏樹に、

――……………………。

特にお告げ的なものはなかった。

「いや、レベルアップは!?」