作品タイトル不明
31「ケヴィンの過去じゃね?」
鮮明な記憶はない。
ただ、自分が自分であることを認識したのは、「彼女」に声をかけられた時だった。
「大丈夫かい?」
彼女は笑った。
差し出された手を僕は掴む。
お礼を言おうと思ったのに、声が出ない。
「あははは、無理をしなくていいよ。声を出すにはもう少し、時間がかかると思うよ」
少年のような少女に見える彼女は、笑いながら僕を引っ張り上げてくれた。
何か違和感がある。
「君が助けを求めた声を聞いたから急いで駆けつけたんだけど、ごめんね。助けてあげることはできなかったよ」
不思議なことを言う子だと思った。
笑顔が消えてしまった彼女の言葉の意味が理解できない。
助けられなかったと言われたが、僕に何か問題はない。
「思い出せるかな?」
僕は首を振った。
バイクに乗っていたことは思い出せた。
唯一の趣味だった気がする。
「君はバイクで事故を起こしてしまって、死の間際に助けを求めたんだ。だけど、ごめんね。僕は神様だけど生き返らせることはできないんだよ」
少女の言葉に驚いた。
何を言っているのか、どういう意味なのか。
――だって、僕は生きているんだから。
「残念だけど、君は死んでしまったんだ。でも、助けを求められて何もしないだと神様としての矜持に関わるからね。君を転生させた。君は自由だ! 何者にも囚われることなく、ずっとずっとずっとバイクに乗る日々を送れるよ!」
そんな日々は求めていない。
バイクだけの生活など望んでいない。
だって、僕には家族が、日常が……あれ?
僕は、首を傾げた。
何も思い出せない。
家族はいたはずだ。
妻と子供がいたはずなんだ。
仕事だって、頑張っていたんだ。
なのに、どうして、家族の顔も名前も、仕事の内容も思い出せないんだろうか?
バイク事故の影響だろうか?
――待って、待ってくれ。僕は、自分の名前も思い出せない!
「僕が君に求めるのは、幸せになってほしいことだけ! どうか、君のこれからが幸せでありますように!」
そう言って彼女は去っていく。
――待って! 待ってくれ!
声が出ない。
身体も上手く動かず、負えない。
それでも彼女を追いかけ続けた。
彼女はもういない。
代わり、人がいた。
助けを求めようと近づくと、悲鳴を上げられた。
なぜだ?
どうして!?
自分の身に何が起きている?
何が起こっている?
僕は、まず身体に異変があるのではないかと不安になり、カーブミラーで自分の姿を確認した。
――え?
ガードミラーに映る僕には首がなかった。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
この姿になって初めて出した声は、言葉にできない感情を込めた絶叫だった。
■
「普通に可哀想だし、普通に被害者だし、普通に新たな神々が噛んでいること間違い無いし」
「同感じゃ」
「同感っすね」
ケヴィンが語った過去から、察するに、バイク事故で死亡した人間を首なしライダーにしたようだ。
どのような意図があるかわからないが、悪趣味なことだと思う。
素直に死んでいた方が良かったのではないかと思う。
「もう何年まえかわかりませんが、平成だったことは間違いないですね」
「なんでケヴィンって名前にしたの?」
「…………その、恥ずかしい話ですが」
「うん?」
「拾ったエロ本にケヴィンという名前が出てきたのでそこから」
「本当に恥ずかしい話だった! エロ本拾うなよ!」
「暇だったんです!」
夏樹だけではなく、全員ががくりと力が抜けた。
事故で死ぬはずの運命を変えられたこと、自分のことを思い出せないことはさぞ辛かっただろうと思っていたところに、エロ本を拾ったという話が出てきてしまったのでうまくしんみりできなかった。
「んで、エロ本ライダーさん」
「首なしライダーって言ってください!」
「これから、どうする? 見た限り、死ねないわけじゃないようだし、いつまでも彷徨っていないで成仏するっていうのもひとつの選択肢だと思うんだけど」
「そうですねぇ」
ケヴィンは腕を組み、しばし悩む仕草をする。
夏樹たちも茶々を入れる気はない。
一分ほどだろうか、ケヴィンがゆっくりと夏樹たちの方に身体を向けた。
「――首なしライダーが仲間になりたそうにこちらを見ている」
「おま、ぶっ飛ばすぞ!」