作品タイトル不明
間話「月読先生も大変じゃね?」②
月読命は職員室から暗くなった空を眺めながら、凝った肩を回していた。
「お疲れ様だな、月読先生」
「萌葱先生、お疲れ様です」
新たな神々の学校の神である萌乃萌葱は、月読に親しげに挨拶をする。
「修学旅行の話はどうなった?」
「ははは、一応は京都で話が進みそうですよ。先方があまりにも拒むので、神のツテを総動員して断れなくしてあげましたよ!」
「……疲れていたんだな」
「ええ、まあ、先方には悪いことをしたと反省しています」
「裏を知るだけの一般人に名のある神から圧があるというのはなかなか酷だな」
「うぐっ」
「実は私はいい話を持ってきたんだ。我が中学校も、京都もみんな幸せになれる選択肢がある!」
「……嫌な予感しかしませんが聞きましょう」
「異世界に行こう!」
とてもいい提案をしているとばかりに胸を張った萌葱に、笑顔で月読は簡潔に応えた。
「――却下です!」
「なぜだ!?」
「なぜって、異世界なんてどうやっていくかわかりません! いえ、そうではなくてですね、修学旅行が異世界とか何を修学すればいいんですか!」
「異世界の文化だ! 現代人にとって、古い歴史など異世界みたいなもんだろう!」
「学校の神が学校で学ぶことを思い切り否定しようとしていませんか!?」
「それはそれ、これはこれ、だ!」
「そもそも異世界に簡単に行けるわけがないでしょう。私だって難しいですからね」
「そうなのか? だが、ほら」
そう言って萌葱が一枚のチラシを月読に渡す。
受け取ったチラシを眺め、月読は目を大きく見開いた。
「――格安異世界旅行! 新神旅行会社まで」
「新たな神々めぇえええええええええええええ!」
「……そういえば、私にこのチラシを渡してきたのは門の神とか言っていた気がするな」
「萌葱先生! 一番重要なところをですからね、そこ! というか、新たな神々と敵対している私に、新たな神々のしかも門の神の力で異世界旅行って普通話を持ってこないでしょう!」
「そうかもしれないが、私は基本的に生徒のことしか考えていない!」
「……それはそれでいい先生なんでしょうけど、同僚のことも気遣ってくださいよ」
「善処しよう。それで、どうする? 異世界修学旅行行くか? きっと生徒たちは大喜びだぞ!」
「私には生徒同士が愉快なスキルを得てデスゲームに発展する未来しか想像できません!」
「ははは、そんなバカな! 私たちの生徒がそんなことをするはずがないだろう!」
「いえ、十分にありえます。結局、最後は夏樹くんが異世界を破壊して終わりだと思いますけどね」
「――む。やはり由良夏樹を異世界に連れていくのはまずいか」
「ええ。彼もトラウマがあるので、刺激する必要はないでしょう」
「仕方がない。可愛い生徒が望まないことをするのは真の教師ではないからな。ところで、京都に観光の神という無害な知り合いが」
「そういうのはいいですから!」
月読は身支度を整えると、チラシに堂々と住所を載せている新たな神々を検挙すべく職員室を飛び出した。
――残念ながら、逃してしまった。
――この日、月読はやけ酒をした。