作品タイトル不明
16「肉じゃがには希望が詰まっているんじゃね?」
「おいちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「うまっ!」
昼休みの屋上で、花子からもらったお弁当を食べた夏樹と一登はおいしさに喜んでいた。
夏樹に至っては、ご丁寧に口から魔力の砲撃を空高く放つほどだった。
「ちょっと甘さが強い厚焼き卵……一生懸命に花子さんが慣れないフライパンを握っている姿が脳裏に浮かぶよ!」
「生姜焼きも味の濃さがちょうどいいし、お肉も柔らかいね! はらぺこ中学生にはありがたいです!」
「ウインナーなんてタコさんだぜ!」
「俺、初めてかも」
「俺だって初めてだよ、タコさんウインナー! 花子さんに俺と一登の初めてを奪われてしまった……」
「夏樹くん、言い方! 言い方ぁ!」
誰かに聞かれたら誤解を招くであろう夏樹の言い方に、一登が顔を引き攣らせる。
「おかずたくさん、お米たくさんって嬉しいなぁ!」
「うんうん。俺、このお弁当ならお金出してもまた食べたい」
「俺も! ……花子さんって、そういえば俺のお姉ちゃんだった気がする。だから毎日お弁当作ってくれるかも」
「お姉ちゃんは毎日お弁当作ってくれないんじゃないかな?」
「……駄目かぁ」
花子の作ってくれたお弁当はおいしかった。
おいしさだけなら、特別ではない。
しかし、花子が一生懸命作ってくれた想いが込められている。
だからこそ、美味しい。
美味しいのだ。
「花子さんの背後で腕を組んで見守る雲海おばあちゃんが見える」
「見えるねぇ」
「つまみ食いしようとしてしばかれている星雲おじいちゃんも見える」
「……み、見えるかなぁ?」
「お姉ちゃんには私がお弁当を作ります! って、キリってしている都さんも見える」
「うん。普通に見えるね。いるね」
「そんな都さんに、苦笑しながら頑張ってねと応援してくれる優しい澪さんも見える」
「ははは、見える見える」
「そして花子さんをライバル視して本格中華鍋を振るうマモンさんと、本格カレーを作ろうとするガープさんの姿も」
「見えないよ。見えないよー。マモンさんは青森だし、ガープさんだって急に水無月家の厨房にはいないからねー」
「おっと、ごめん。妄想の翼が羽ばたいちゃった!」
「羽ばたきすぎだよ!」
そんな会話をしながら、ご飯が進む。
花子の作ってくれたお弁当は二段になっている。
一段目は白米がぎっしり入っていて、真ん中には梅干しだ。
程よく甘く、酸っぱく食欲を勧めてくれる梅干しは水無月家で雲海が漬けていると見た。
「さあ、最後のメインディッシュだ!」
「――うん!」
夏樹と一登がごくり、と唾を飲む。
ふたりがあえて最後に残したおかずは「肉じゃが」だった。
「まさか女の子が作ってくれる肉じゃがを食べられる日が来るなんて、俺も偉くなったもんだぜ」
「大出世だね!」
常識のある一登も「女の子の作ってくれた肉じゃが」という一大イベントの前にテンションが上がっている。
「――いざ! いただきます!」
「――いただきます!」
――めっちゃおいしかった。
――由良夏樹のレベルが1上がった。
――三原一登のレベルが1上がった。
「また!? お弁当で上がったの!? ねえ、本当に、俺のレベルっていくつ!?」
「俺もなの!? こわいよ!? また声が聞こえたんだけど!? なにこれ、ファンタジー!?」