軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15「女の子の手作り弁当って都市伝説じゃね?」

「――おはようございまもんまもん」

「夏樹くん、おはよう。……でも、どうして急にマモンさんの語尾を真似ているの?」

朝の通学路。

三原一登と朝の挨拶を交わした夏樹はいつもの覇気がなかった。

「レベルが微妙に上がらなかったんだ。そもそも今、なっちゃんレベルがいくつかもわからないし」

「ゲームの話? 新作か何か?」

「いや、ゲームっていうか、俺の人生のレベルアップが」

「何それ!? あ、もしかして、この間叫んでていたアレ? 夏樹くん、もしかして……異世界で度重なる戦いをした結果、トラウマを抱えているんじゃ」

「……そんなことはないと思うよ」

「トラウマを抱えている人は自覚がないんだよ」

一登の瞳が優しく、夏樹を心から案じていた。

彼の瞳は、由良家で小梅たちから向けられた視線でもある。

疲れているのだから休めと再三言われたのをふりきってなんとか学校に来たのだ。

「元気元気! なっちゃん元気もりもり! 今なら、ガープさんの首を刎ねてオブジェにできるくらい元気だよ!」

「ガープさんがいないからって言いたい放題だなぁ。とにかく! 無理はしないでね!」

「はい、パパ」

「さすがにそれはちょっと、春子おばさんのファンに狙われるからね。ほら、あちらの徳永さん家のおじさんが瞬きせずにこっち見ているから。徳永さんは学生時代に春子おばさんに告白して振られているからまずいんだって」

「ごめんなさーい! 冗談でーす!」

近くの家から瞬きせずに一登をガン見していた徳永さんに夏樹が大きく手を振ると、彼は安心したように笑顔で大きく手を振替してくれた。

「誤解が解けたようでなによりだ」

「そもそも誤解をさせないでほしい」

「ごめんねー」

謝罪しながら、夏樹は母のカルト的な人気は一体何なんだろうと不思議に思う。

ファンタジーだけで目がまわるほど忙しいのだ。

母の人間関係に首をつっこむ余裕はない。

「おはよう! 愉快な子供たち!」

ばさっ、と羽ばたく音がして振り返ると、スポーツブランドのジャージに割烹着を装備したルシファー・花子がいた。

「あ、花子さん。おはよー! これから、トイレに出勤?」

「そうなのよ! 私ってトイレの花子さん――じゃねえから!」

「ノリツッコミあざっす!」

「お、おはようございます。お元気そうでなによりです」

「あんたらもね」

小梅の姉にしてサタンの娘。

そして向島市の土地神であるルシファー・花子は、ノリの良いお姉ちゃんだ。

本来は、控えめな文学少女なのだが、結婚相談所で知り合った森山田さんなる者からいろいろ影響を受けて、ちょっときつめだが話せば割と面白い天使になってしまった。

一度は文学少女に戻っていただけに、夏樹と一登はちょっとがっかりする。

「……あんたら、あからさまにがっかりした顔しているじゃない」

「そ、そんなことないよ?」

「そうそう! 別に文学少女に戻れなかったんだってがっかりなんてしませんから!」

「……素直な子たちね。ま、いいわ。一応、言っておくけど、この性格の方が楽なのよ。本来の私だと、おどおどしていて土地神には向かないからね。部屋の中だけ戻って、普段はやる気スイッチみたいな感覚でこっちと使い分けることにしたの」

つまり文学少女を夏樹たちが再び見ることは難しいらしい。

「ほんっとうにがっかりしてくれるじゃない! 素直な子ね!」

どんより凹んでしまった夏樹と一登に頬を引きつかせながら、花子は大きく咳払いする。

「はい、これ。とりあえず、先日のお礼っていうか、お詫び」

花子が差し出したのは包みだった。

「雲海おばあちゃんに手伝ってもらってお弁当つくったの。一応、オッケーはもらってるから、よかったら食べて」

「――ま?」

「――じ?」

「な、なによ。あー、わかった! あんたら女の子の手作り弁当って初めてなのね!」

「……女の子にお弁当を作ってもらえる人間なんて、都市伝説だよ」

「違うよ、夏樹くん! 陰謀論だよ!」

「そうだった!」

「……びっくりよ。ま、じゃあ、初めての女の子のお弁当を味わって食べなさい!」

「女の子?」

「どこからどう見ても美少女でしょう? 女の子でしょう? 否定したら、今からバトル回になるから覚悟して返事なさい!」

「わーい、女の子からのお弁当だ! ひゃっはー!」

「ひゃっほー!」

「そうやって素直に最初から喜んでおきなさいよ。あ、もしかして照れちゃったとか?」

「いえ、それはないです」

「真顔で言うんじゃねえよ! 照れろよ!」

夏樹の頭を引っ叩く花子だったが、彼女の表情はほんのりと赤い。

もしかすると、照れているのはお弁当を渡す側の花子なのかもしれない。

「ちゃんと味わいなさいよ! これから、義政ちゃんだっけ? あの五歳児と、ついでに征四郎おじさんと、小梅たちにもお弁当配るから。じゃあね!」

「ありがとう、花子さん!」

「ありがとうございます!」

花子が手を振り、羽ばたいて消えた。

「花子さん萌えー」

「萌えー」

夏樹と一登は初めてのお弁当と、花子のちょっとした恥じらいにときめいた。

――由良夏樹のレベルが0.1上がった。

「今!? 急に!? もしかして花子さんのお弁当が俺に何か足りないものを補うアイテムだったの!?」

「え? なになに、こわい! 何、今の声!? レベルアップってなに!? どういうこと!?」

「一登聞こえたの!?」

「聞こえちゃったよ! こわいこわい! 何、今の!?」

「わかんない!」