作品タイトル不明
13「事後処理ができる人って好感度高くね?」
「――あー、疲れた」
擬似空間を破壊した夏樹は、いつもの向島市に戻っていた。
花粉症の神の気配はない。
殺した手応えはなかったので、逃げたのだろう。
一応、手負にはさせたので、溜飲を下げておくことにしておく。
それよりも、問題は残っていた。
「……いや、疲れたじゃねえよ」
「なんてことしてくれるんじゃ!?」
「ひどいっすよ、夏樹くん!?」
「いくらあたいが鬼だからってこれはねえよ!」
千手、小梅、銀子、虎童子の頭がアフロヘアーになっていたのだ。
雷に巻き込まれてこの程度で済んでよかったと思うが、彼らがところどころ衣服が焦げているのが見受けられた。
「……みんな、ギャグみたいに」
「おどれがやったんじゃろうが!」
「霊能関係者ってだけで俺の身体能力は一般人に毛が生えたくらいなんだよ! 雷をかわせるわけねえだろ!」
「鬼にアフロって、ギャグ通り越して笑えないじゃん!」
「わ、私の艶やかな黒髪が! 乙女の髪をなんだと思っているっすか!」
四人とも、とてもお怒りだ。
夏樹も反省している。
ノリと勢いに任せて、小梅たちのことを考えていなかった。
なんとかなるだろうという信頼もあるのはもちろんだ。
それでも、最後の一撃を放った時には、忘れていた。
「――めんご!」
ウインクをしてみるが、四人の怒りは収まらなかった。
「あ、あの」
「うん?」
声をかけられて視線を向けると、そこにはおとなしそうな三つ編みに眼鏡をかけたカーディガンを着た女性が立っていた。
「えっと、どちら様ですか?」
「あ、はい。花粉症の神です。花粉症の神の中で一番立場が弱い雑魚です」
「…………そんな自分を卑下する言い方しなくても」
先ほどまで敵対していた花粉症の神を名乗りながら、とても攻撃し辛い雰囲気の女性だ。
おどおどと、小動物を連想させる雰囲気を感じる。
「よ、よかったらこれをどうぞ」
花粉症の神はそう言って封筒を夏樹に渡す。
「……ラブレター?」
「ち、違います! お酒を駄目にしてしまったので、その、商品券です。弁償させてください」
弁償、という言葉に小梅と銀子がくわっ、と目を見開く。
「それと、よかったら」
そう言って花粉症の神は夏樹の顔に触れて、何かを引き抜くような仕草をした。
「なにをしたの?」
「花粉症を取りました。もう花粉症の症状が出ることはありません」
「ちょ、ま、本当に!?」
「ほ、本当です」
びっくりする夏樹に、花粉症の神はペコペコと頭を下げて肯定する。
「わ、私たちが嫌われていることを知っています。新たな神々は、人間を利用しても嫌うことはありませんけど、私たち花粉症の神は人間が嫌いです。人間は私たちを絶対に好きになってくれないと知っているからです」
「……それは、その」
「私たち花粉症の神は、新たな神話に興味はありませんが、もし、新たな神話で立場が変われば好きになってくれるのではないかと願っているのです。神として、愛されたい。それが私たちの行動理由です。きっとこれからも敵対するかもしれませんが、その時は容赦せず殺してください」
「いや、あのですね」
「あ、私ったら雑魚のくせにすみません! すみません! 調子乗って喋りすぎました!」
「そんなこと思ってないから! なんだろう、やりづらい!」
「で、では、失礼しますね。お酒、ごめんなさい」
「ちょっと待って!」
夏樹が止めるが、花粉症の神は消えてしまった。
夏樹は封筒を開けると、商品券が二万円入っていた。ビールを買い直すことができる。
「――私、思ったんっすけど、花粉症の神って善神なんじゃないかと思うっす」
「俺様もそう思うんじゃ。来年から花粉症に苦しまずにええしのう」
現金な銀子と小梅はさておくとして、夏樹は腑に落ちなかった。
「ねえ、千手さん」
「なんだよ?」
「花粉症を取り除けるなら……花粉症の神って主神レベルで信仰されね?」
「間違いないな。裏でこそこそするんじゃなくて、表立って花粉症を奪ってまわればいいんだが、なぜやらないのか俺も気になっていた」
「言おうと思ったんだけど、消えちゃったから」
「今度言ってやれ」
「うん」
「それはそれとして、俺が美容院で綺麗に整えてもらっている髪をアフロにしやがった悪い子にお仕置きの時間だ。言い残すことは?」
千手が指を鳴らすと、虎童子、小梅、銀子も再び怒りを露わにする。
夏樹は親指を立てた。
「――みんな、めっちゃ似合ってないね!」
もちろんぶっ飛ばされた。