作品タイトル不明
3「地元のスーパーって意外と安くね?」①
「えっくしっ! なんだろう、鼻がむずむずする目もかゆい」
向島市の商店街の外れにある小さなスーパーに夏樹と小梅、銀子はいた。
大手スーパーに足を運ぶことも多いが、小さなスーパーで事足りることも多い。
「お、なっちゃん! べっぴんさんと同棲しているって聞いていたけど、えらいべっぴんさんだねぇ」
「おっちゃん、ちーっす!」
『スーパーはなまり』の店長である花井さんが夏樹を見つけて手を振る。
六十歳前後の初老の男性だが、普段から身体を動かしていることもあり引き締まっている。
夏樹が物心つく頃から母春子と一緒に通っていたので顔見知りである。
数年前にできた大手スーパーとちゃんと棲み分けができているので、ダメージは少ないと聞いている。
花井さんの奥さんと、息子さんも『スーパーはなまり』で働いている。
「元気だなぁ。最近、由良さん家の専業主夫を名乗るハリウッド俳優もびっくりなイケおじがスーツの上にふりふりエプロンを着て買い物に来てくれるおかげで、おばちゃんたちが集まってくれるのがありがたいよ」
「……サタンさんだ」
「俺様のクソ親父じゃ」
「ははは、人気者っすね」
「なんだなんだ、べっぴんさんのお父さんかい。先日、飲み屋でご一緒させてもらったんだが、日本語も流暢で気さくでなぁ。おっちゃん奢ってもらっちゃったよ!」
「コミュ力高いのう! あの親父め!」
「それと、アルフォンスちゃんも仕入れ先をウチにしてくれてなぁ。なんでもなっちゃんが紹介してくれたって言うじゃないか」
「あー、なんか聞かれたからおすすめしときました!」
ちなみに、「スーパーはなまり」は当初「はなまる」にしようとしたが看板の発注を間違えて「はなまり」にしてしまったことがきっかけだと聞いている。
「アルフォンスちゃんも顔を出してくれるんだが、もうアイドルもびっくりのイケメンじゃないか。おかげで若いお客さんも増えたよ」
「……そういえば」
見渡すと、中高生が以前よりも多い気がした。
二十代の男女も心なしか増えている。
「へくちっ。あー、なんか鼻がむずむずする」
「なんだなんだ、花粉症かい?」
「うーん、俺って目が少し痒くなるくらいなんだけどなぁ」
「そういえば、おっちゃんもおとといくらいからくしゃみがよく出るな。風邪とかが流行ってなければいいんだがねぇ」
その後、少し他愛ない話をしてから夏樹たちは花井のおっちゃんと別れた。
彼は手を振って仕事に戻っていく。
「さてと、マモンさんが送ってくれた春キャベツで今日はお好み焼きだから、トッピング何にしようかなぁ」
「チーズじゃろう!」
「お餅もありっすよ!」
「馬鹿っ、銀子! 餅は危険じゃ!」
「……そういえば小梅さんとサタンさんもお年寄りっすもんね」
「年寄り扱いせんでええ! ……餅は危険じゃが」
「やっぱりお年寄りじゃないっすか」
「安心して、小梅ちゃん! 餅が詰まったら首を切って餅を取り出せばいいんだよ! ヒールもあるし!」
「ひえっ」
「発想がおかしいっす」
「あれー?」
小梅と銀子は夏樹にドン引きだ。
もちろん、夏樹だって一般人にそんなことはしない。
あくまでも回復力の高い小梅だからこその提案だった。
「……お前ら、なにを阿呆なことを言ってるんだよ」
「――っ、その声はまさか!」
背後からかけられた呆れた声に、夏樹が振り返る。
「よう、由良。それに小梅の姉御、銀子の姉御」
「はじめましてー、千ちゃんの妻のとらぴーでーす!」
「こいつのことは気にしないでくれ。マジで」
どこか疲れた顔の七森千手と、腕にしがみついて「絶対に離さねえ」と強い意志を感じさせる虎童子がいた。