作品タイトル不明
66「花子さんの出陣じゃね?」
――時間は少し遡る。
水無月家で読書をしていた花子は、荒ぶる神気を感じて顔をあげて窓の外を見た。
「……新たな神ですか。えっと、この場合って私はどうすれば」
土地神業務を始めてわずかでしかない花子は、新たな神々への対処をどうすればいいのかわからなかった。
片方の神は知らぬが、もう片方の神は知っている。
「あの、雲海おばあちゃん」
「はっ、ここに」
「……水無月家では新たな神々ってどうしていますか?」
「あまり関わることはないのですが……愛の女神、絶望の神ならば由良夏樹殿と接触したのを知っています」
「愛の女神は、その、知り合いですごめんなさい」
「いえ、大きな害は……ゼロではありましたが、天照大神様もお気にしていなかったので。もしや、新たな神々が向島市に?」
花子は頷いた。
くわっ、と雲海の目が見開く。
「花子様が出るまでもありません。この雲海、若い頃はぶいぶい言わせていましたので、新たな神々くらいさっさっと」
「い、いえ、無理ですぅ。無理ですよぉ。力だけなら父レベルですぅ」
「――っ、なんとサタン殿と!?」
雲海はサタンと買い物仲間であるが、彼が魔王であることは知っている。
魔族が必ずしも悪とは言わぬ。
歴史や立場によって、扱いが変わることは知っているのだ。
かつてのサタンはさておき、今のサタンは害がない。
サタンだからと悪いものとして扱うのは、雲海の、水無月家の矜持に関わるのだ。
とはいえ、魔王サタンが魔界を統べる王であることは知っている。
そんなサタンに匹敵する力を持つ神がいるのであれば、脅威かどうか見極めなければいけない。
「わ、私、行きます!」
「花子様、しかし!」
「が、頑張ってきます。私、土地神ですから」
ぶわっ、と雲海が泣いた。
「なんと立派な! 最初は問題がある子だと、そのあとは気性的に不安がございましたが、土地神として務めようとする姿勢にこの雲海感服しました!」
「それで、あの、例のものをお願いしたいんです」
「――わかりました。しばしお待ちください」
「……ありがとうございます」
ぺこり、と頭を下げてお礼を言う花子に雲海が、一度下がった。
花子は鏡台に向かう。
鏡の向こうでは、すっぴんで、黒髪を三つ編みにした大人しそうな少女がいる。
だが、このままでは土地神として仕事ができない。
「森山田さん、お力をお借りします!」
婚活仲間だった森山田から教わった化粧を施し、三つ編みを解く。
クローゼットからデニムスカートとレザージャケットを取り出し、身につける。
「――うん」
鏡を見て理想の自分になると、大きく頷く。
部屋を出て、ブーツを履くと、玄関の前に水無月家の面々が待っていた。
「花子! は・な・こ! は・な・こ!」
「は・な・こ! は・な・こ!」
「は・な・こ! は・な・こ!」
「は・な・こ! ま・も・ん!」
水無月家全力の花子コールだった。
しばらく花子コールを浴びていた花子が、大きく拳を掲げた。
ぴたり、と花子コールが止む。
「やる気が出たわ! 新たな神々だかなんだか知らないけど、天界一の暴れん坊! 悪い意味で太一郎にそっくりと謳われたこのルシファー・花子がけちょんけちょんにしてやるわ! 私のシマでやりたい放題な奴は――結婚相談所にいけない身体にしてやんよ!」
「いってらっしゃいませ、花子様!」
「――おう!」
気弱だった花子はいない。
今は、化粧と水無月家のみんなのエールを背に、強気な花子として水無月家を飛びだったのだった。