作品タイトル不明
64「愛ちゃんと幸せの神じゃね?」①
新たな神々の中で上位の力を持つ者だけが選ばれた『十天』に名を連ねる、「幸せの神」は病院の屋上にある給水等に腰をかけ、日傘をくるくる回していた。
ストライプのスーツと眼帯をつけた小柄な少女の姿ならば、本来は目立ちそうだが、彼女の姿は人間には見えない。
意図的に見せていないというのももちろんあるが、「幸せになりたい」と心から願っていないと見えないのだ。
幸せを願う人間は数多いるが、幸せの神を見ることができる者は、幸せを強く強く願っていなければならない。
それこそ、絶望しかない状況下で一抹の幸せを願うレベルではないと見ることができなかった。
そんな幸せの神の願いは、誰かを幸せにすること。
自分の手で、幸せになれたと幸福に導くことだ。
そういう意味では、祝福を与えて放置している「祝福の神」とは相容れない存在である。
「早く、幸せにしてあげないと」
「……あんた、どこのもんよ?」
日傘をくるくる回している幸せの神の背後から、少女の声がかけられた。
「だあれ?」
「振り向くくらいしなさいよ」
神力が込められた不機嫌な声を背中にぶつけられ、幸せの神が振り返る。
「あんた、痛々しい格好してるわねぇ」
そこには、芋ジャージとサンダル姿の愛の女神こと愛ちゃんがいた。
「……君よりはマシな格好だと思うけど」
「舐めんな! ジャージは至高! ジャージ万歳!」
「否定はしないよ。でも、色のチョイスがセンスがないね」
「ストライプのスーツを着て眼帯と日傘装備したあんたにセンスがないとか言われたくないんですけどぉ!」
愛ちゃんは日課の買い物に出かけようとしたところ、自分以外の新たな神々が力を使ったことを察知して飛んできたのだ。
「私の縄張りでなにやってんのよ」
「私は幸せに導くために神として振る舞っているだけだよ」
「……その格好、その言動……なるほど、あんた厨二病の神ね!」
びしっ、と指を指して正体見破ったとドヤがをする愛ちゃんに、幸せの神が無表情から一変憤怒の形相になった。
「――殺すぞ」
「あら、良い殺気ね。ついでに思い出したわ。あんた、幸福の神でしょう?」
「違う、幸せの神だ!」
「違いがわからないんだけど。えっと、そうそう、自分以外の幸福の神の存在を許せなくて殺して取り込んだっていう数本ネジがぶっ飛んだ奴よね。あー、嫌だ嫌だ。私が平和なサブスク生活をしているところを邪魔しないでくれますぅ?」
「君は誤解しているよ。私は、幸福の神たちの存在が許せなかったわけではないよ。幸福の神でありながら、人を幸福にしようとしない怠慢が許せなかったから殺しただけ」
「違いがわかんなーい!」
日傘が勢いよく飛んでくるが、愛ちゃんは気にした様子もなく手で叩き落とす。
「まったく、私が出張している間に、天使が増えてるし、新たな神々が何人か来ているし、――私の縄張りだって言ってんだろ?」
空気が震えた。
凄まじい神力が愛ちゃんの怒りによって大気を揺らしているのだ。
「私ね、あんたがどこの神でも、何をしようとしても構わないの。でもね、お前たちってやることなすことがだいたい最後になっちゃんに収束するからぁ、そう言うの迷惑なんですけどぉ!」
「私の邪魔をしようと言うのか?」
「あんたが私の邪魔をしているのよ」
「そうか。それは謝罪しよう。だが、私は幸せの神として、次の人間を幸せにする義務がある」
「……そうやって義務とかお堅いことを言うから、あんたは誰も幸せにできないのよ。どうせあんたが力を与えた人間なんて力に溺れて斬られる未来しか見えないからー」