作品タイトル不明
60「次男なのに三郎じゃね?」①
「――さ、三郎兄じゃと!?」
「はい。三郎です。気づいてくれなかったんですか?」
「気づくも何も……三郎兄はもっとこう陽キャを凝縮したようなアホ天使じゃったじゃろう。なんでそんな休日を満喫するちょっと意識高い系になっとるんじゃ!?」
酷い言われようだった。
夏樹には兄弟がいないが、いたらこんな感じだったのかと考えてしまう。
一登とは兄弟のようだが、それと同時に親友でもあるので少し違う感じがする。
もしくは、兄と妹というのはこんな感じなのか。
「小梅が縦ロールをやめてやんちゃな女の子になったように、僕も落ち着いたんですよ。父から聞いていませんか? 今、僕はここ向島市で医者なんですけど」
「……そういえば……解体新書読んではあはあしておったんは聞いたんじゃが」
「それはかなり昔の話ですね。はあはあしてはいましたけど」
「しとったんかい」
「人間に興味津々なんです。人間のことを知りたくて、研究者になるか、医者になるか、適当に攫ってやりたい放題するか悩んだんですが、医者にしました」
「やりたい放題せんでよかったと心から思うんじゃが!?」
「人間が大ちゅきなので酷いことはしませんよ」
「大ちゅきて……」
兄妹の会話を楽しんでいた三郎が、夏樹に視線を向けて軽く会釈をした。
夏樹も頭を下げる。
「初めまして――ではないんですね。覚えていないかもしれませんが、何度か君のことを診たことがあるんですよ。ですが、改めて。ルシファー兄妹の次男三郎です。よろしくお願いします」
「由良夏樹です。よろしくお願いします」
会ったことがあると言われても、見覚えはない。
ルシフェルよりも、小梅と花子に面影が似ている三郎の顔をよく見ていても、やっぱり思い出せない。
「ごめんなさい、覚えていないです」
「ははは、仕方がありません。医者と会う時なんて、体調が悪い時が多いんですから。それに、僕と夏樹くんが会ったのは、君が小学校の頃ですから数年前です。大きくなりましたね」
三郎の眼差しはどこか優しい。
夏樹もつい笑みが溢れてしまう。
「いろいろ大変だということは聞いていますよ。それに、小梅だけじゃなく、父まで世話になっているようで申し訳ない」
「いえいえ。小梅ちゃんとは楽しくやっていますし、サタンさんにもお世話になっているので」
「そう言ってもらえると嬉しいです。先日、花子も土地神としてこの地に来たようですし、一心も何度か顔を出しているようですからね。なぜこうも向島にルシファーが勢揃いするのか不思議でなりませんよ」
「ですよねー」
小梅との出会いは偶然だった。だが、まさか、一ヶ月も経たないうちにルシファー家コンプリートするとは思わなかった。
「さて、話をしている間に我々の順番ですね。ここであったのは何かの縁です。――奢ります」
「わーい、さすが三郎兄じゃ!」
「現金ですねぇ。まあ、甘味は大事ですからね。私もたまの休日は甘味と喫茶店巡りをしながら、人間を観察するのが趣味なんです」
「最後がなければよかったんじゃがなぁ! あ、店員さん、俺様、バナナといちごにあんことホイップクリーム多めで!」
せっかくなのでイートインで一緒に食べることになった。