作品タイトル不明
59「デートイベントとか都市伝説じゃね?」③
早めに昼食を終えた夏樹と小梅はあてもなく向島の街を歩いていた。
今日は土曜日だけあって、夏樹と同世代の子が多い。
「――っ、待つんじゃ、夏樹」
「どうしたの、小梅ちゃん。珍しくシリアスそうな顔をして」
「俺様はいつでもシリアスじゃぞ! ――それよりも、あっちを見るんじゃ!」
小梅が指をさしたのは、中高生が並ぶ列だった。
列の先に視線を向けると、クレープ屋がある。
「さっきからいい匂いがすると思ったら、クレープ屋さんか」
「並ぶぞ!」
「ちょ!?」
女の子か、カップルしか並んでいないクレープ屋の列に並ぶことが抵抗があった夏樹だが、それよりも問題があった。
「大盛り冷やし中華に、杏仁豆腐たべたばかりじゃない!?」
「女の子にとって甘味は別腹じゃ! ちゃんと洋菓子と和菓子ように別腹も二つあるんじゃ!」
「そんなことないよ!? 俺も甘いものは好きだけど、後にしようよ!」
「いーや、俺様調べだと、午後を過ぎると食事を終えてオヤツタイム間際になったカップルが並ぶんじゃ! そうなったら、並び辛いじゃろう!」
「並び辛いね!」
「じゃろう!?」
小梅が望むのなら、と夏樹が折れる。
よく考えれば、小梅だけ注文すればいいのだ。
「んじゃ、並ぼうかって……しゅごい、女の子とカップルの列に堂々と並んだ男性がいる!
――猛者と見た!」
「どんな猛者じゃ!? んんん? あの男、どこかで見たことがあるんじゃが」
夏樹と小梅が列に並ぼうとすると同時に、すらりとした長身の男性が列に並んだ。
列に並ぶ少女たちが、ほう、と吐息を漏らす。
男性は、三十ほどだろうか。
癖のある黒髪で目元を隠し、黒縁の眼鏡をかけていた。
顔の一部が隠れていても、彼の容姿が整っていることは十分にわかる。
身長は百八十を超えて、足も長い。
スラックスにセーターを着て、列に並んで文庫を開く姿も絵になっている。
「――あの美脚、どこかで見覚えが」
「……おどれも見境がないのう」
男性の脚を見て、不思議と既視感を覚える夏樹が首を傾げた。
すると、男性が顔をあげてこちらを見た。
正確には、小梅を見ていた。
「なんじゃ?」
真っ直ぐに視線を向けられた小梅が訝しむ顔をすると同時に、男性が声を発した。
「誰かと思えば、小梅じゃないですか」
「…………お、俺様を知っているじゃと。だ、誰じゃ?」
「誰って、兄に対して相変わらずですね」
「あ」
「に?」
クレープ屋に並ぶ少女たちの視線を集めた青年は、前髪をかき分けて顔をはっきり見せた。
端正な顔立ちが覗き、少女たちから小さな悲鳴が上がる。
「薄情な妹ですねぇ。何年も会っていませんが、僕ですよ。――ルシファー・三郎です」