作品タイトル不明
58「デートイベントとか都市伝説じゃね?」②
「食った食った! お腹いっぱいなんじゃ! って、なんで夏樹は泣いとるんじゃ!?」
「――ごちそうさまでした。冷やし中華ってこんなに美味しかったんだね」
「美味かったのは同感じゃが、店で泣く奴がおるか!?」
冷やし中華を食べ終えた夏樹は、涙を流して手を合わせていた。
同じく冷やし中華を食べ終えた小梅が、泣いている夏樹にちょっと引いていた。
「いやぁ、なっちゃんに喜んでもらえたのは嬉しいんだけど、泣くほどとは……俺の冷やし中華がそこまで美味かったなんて……」
顔馴染みの店主のおじさんも困惑顔だ。
去年も食べたはずの冷やし中華だが、夏樹の体感的には数年ぶりなのだ。
美味いに決まっている。
異世界では麺類はパスタ風のものしかなかった。そもそも夏樹は異世界では何も口にしていないので、味は知らないが、見るからに不味そうだったのは言うまでもない。
「――シェフに、美味しかった、ありがとうと伝えておいてください」
「いや、作ったの俺なんだけどな。シェフなんて初めて言われたよ」
急に上品ぶった夏樹に笑って店主がツッコミを入れる。
あまり驚いていないのは、夏樹の言動が昔からこんなのだからだろう。
「それにしても、昼前だけど結構お客さんいるね」
「おかげさんでな。ミカエルちゃんの食堂がなんだかんだと中華が強いから最初こそ警戒してたんだが、ちゃんと棲み分けてくれるから助かったぜ」
「ミカエルさんのこと知ってるんだ?」
「そりゃな。あんなイケメンが綺麗なお嬢さんと勤勉な青年と一緒に店を始めたら良くも悪くも話題になるさ。商店街が活気付くのは大歓迎だが、客が偏るんじゃないかって警戒していたところ、あちらさんから挨拶に来てくれてな。せっかくなんで、仲間内の飲食店連中をみんな集めて良い感じに棲み分けができるように何度か話し合ったもんだぜ」
「すげえなミカエルさんのコミュ力!」
店主はこっそり杏仁豆腐を夏樹と小梅の前においてウインクした。
「あざーっす!」
「ありがとうなんじゃ!」
「ははは。ミカエルちゃんは日本語ぺらぺらだし、話もわかるし、助かったぜ。今度、商店街の飲食店でスタンプラリーでもやりたいなって話しているんだ」
「ミカエルさんめっちゃ馴染んでるなぁ」
「ミカエルちゃんのおかげで客が増えたくらいだぜ」
ご機嫌な店主は、夏樹と会話しながらも手際よくチャーハンを作り、茹でた麺の湯切りをする。
「ここだけの話、テレビの取材があるかもしれないって噂だ」
「ほえー」
「やるのう」
(天使的にテレビの取材を受けるのはいいのかな?)
そろそろ正午だ。
客足も増えてきたので、夏樹と小梅は店主にお礼を言って店を出た。
「あー、美味しかった。それにしても――」
「うまかったんじゃ。しっかし――」
ラーメン屋から出てきた夏樹と小梅は声を揃えた。
「ミカエルさんって北欧で料理の修行してきたんだよね。なんで中華!?」
「あやつ北欧に行っとったのになんで中華を得意にしとるんじゃ!?」
ふたりの中に、ミカエルが本当に北欧にいたのかという疑惑が生まれた。