作品タイトル不明
54「ようやく帰宅じゃね?」
「たっだいまー」
自宅に帰った夏樹は、リビングにいる面々を見てにこりと微笑んだ。
(うん。誰一人としてあいつらが手出しできるとは思えないなー)
小島村だか大島山だか知らないが、あの程度の力では小梅たちには傷一つつけることはできないだろう。
そんな奴らは月読に引き渡したので、夏樹たちは帰路に着いた。
夏樹は、一登はもちろん、ガープとマレーを夕食に誘ったが、一登は「久しぶりに両親とゆっくり食べるよ」と家に帰り、「誰がサタンと一緒に飯なんか食うか!」とガープはサタンを理由に拒み、マレーもガープと一緒に帰って行った。
後日、飯の約束をしたので、楽しみだ。
「おう、帰ったんか、夏樹。ジャックとナンシーも観光から帰ってきよったぞ。春子ママも本日はご帰宅じゃ!」
「みんな揃ったってことで、本日は鉄板焼きっす!」
「わーい!」
学校でカロリーを無駄に消費してしまったのでお肉は嬉しい。
「ほら、夏樹。まずはうがい手洗いでしょう?」
「はーい! って、なんでサタンさんがお母さんポジなんだよ!」
エプロンを身につけて台所から顔を覗かせて夏樹に声をかけたのは、母春子――ではなく、居候魔王のサタンだった。
もう由良家の台所を我が物顔で使っている。
気づいたら最新の食洗機や、冷蔵庫、電子レンジが揃っていて、母もにっこりである。
(貢いでるよなぁ、サタンさん)
本人は「俺が使いやすいようにしているだけだ」と頑なだ。
包丁やフライパンなどもかなりしっかりした物が用意されている。
それとなく母が今まで使っていた包丁と、サタンの包丁が並んでいるのがアピールのように感じてしまう。
母がサタンをどう思っているのか不明だが、一緒に生活するには問題ないくらいには好意を抱いているのだろう。
ダンスのパートナーとしても長いようだし、息子としては見守るだけだ。
「ジャックとナンシーもおかえり。旅行はどうだった?」
うがいと手洗いをして茶の間に戻ってくると、小梅と銀子の間に座り、ホットプレートの温度の様子を見ているジャックたちに声をかけた。
「ただいま。友よ」
「ただいま」
「今回は鎌倉に行ってきたよ」
「とても素敵な街並みでした。食事も美味しかったです」
「へえ。俺鎌倉って行ったことないんだよね」
銀子が「だから鎌倉の破壊されていないんっすね」と失礼なことを言うが気にしない。
「そういえば、夏樹は鎌倉に行っていないわね。小学生の時の遠足で鎌倉に行ったけど、風邪ひいていたものね」
「そうそう」
春子が懐かしむように、数年前のことを話す。
小梅が絶句した。
「夏樹……おどれ、風邪引くんか!?」
「そりゃ引くさ! 俺をなんだと思ってるの!?」
「あらあら、小梅ちゃん。夏樹は季節の変わり目には必ず体調を崩すのよ。春はまだマシだけど、初夏になると毎年寝込むのよね」
「繊細なんです」
「繊細て」
「繊細なの!」
自慢ではないが、幼い頃は病弱だった。
よく風邪をひいていたのはもちろん、ちょっとしたことで熱を出したり、寝込んだりしたことは多い。
何度か遠足に行けなかったが、そう言う時はゲームをしていたので悪い思い出はない。
寝込むと母がアイスを買ってきてくれるのも嬉しかった。
「おまたせー! みんなの可愛いリヴァ子ちゃんだよー!」
動画配信を生業にしている海獣リヴァイアサンことリヴァ子が、ハーフパンツにパーカーといった出立で茶の間に現れた。
「じゃあ、そろそろお肉を焼きましょうね。サタンさんお願いします」
「はい、春子しゃん! よろこんで!」
サタンが切り分けた肉を並べた皿をてきぱきと丸テーブルの上に並べていく。
春子は同じく切り分けた野菜をボールに入れて持ってきた。
夏樹は銀子から麦茶をもらう。
小梅たちが缶ビールのプルタブを開けた。
「じゃあ、お疲れ様でした!」
母の音頭で、楽しい夕食が始まった。