作品タイトル不明
38「夜の来訪者じゃね?」③
由良家の茶の間に、モスマンとチュパカブラがいるというファンタジーを超えた空間が出来上がっていた。
夏樹にとって日常になってしまったが、この場には魔界を統べる魔王サタンとその娘の天使もいる。
一登だって異世界で聖剣に選ばれた勇者である。
銀子だって一般枠ではなく、義政も五歳時の割にはなんかいろいろ大人びている。
(――茶の間にまともな奴が俺しかいないじゃない!)
心の声が漏れていたら、みんなにぶっ飛ばされていただろう。
異世界から帰還して、再度異世界に行ったどころか、複数の異世界で無双した勇者が夏樹である。
「……粗茶ではなくめっちゃ良いお茶っす」
カタカタと手を震わせながら、銀子が湯呑みをモスマンとチュパカブラの前に置く。
「ありがとうございます」
「ありがとさん」
「い、いえ」
続いて小梅が、お煎餅の詰め合わせをそっとテーブルに置いた。
「お、お茶請けなんじゃ……」
やはりカタカタと手を震わせている。
(そういえば、ふたりはモスマンさんとエンカウントしてなかったんだよなぁ)
水無月家から帰ってきて茶の間で倒れるように寝ていた時には、すでにひと足先に帰ってきたモスマンは義政と一緒に夏樹の部屋でゲーム中だった。
そこへ夏樹と一登が帰ってきたところに、チュパカブラの来訪だ。
さすがに客人を前に小梅と銀子を寝かせていくわけにはいかなかったので、起きてもらったのだが、モスマンとチュパカブラを見て大絶叫。
小梅は逃げ出そうとしたが、腰を抜かして動けず。銀子は気絶した。
ふたりを介抱して現在に至る。
「いやー、日本はいいところだな。俺たちを目撃してもショットガンとか持ち出してこないし」
「日本の一般家庭に銃はないからね。あと簡単に発砲もできないから!」
チュパカブラはきっと何度か発砲されたことがあるのだろう。
夏樹も拳銃を所持している状態で遭遇したら撃つ自信がある。
「や、やばいんじゃ、夏樹。UMAが日本を支配しようとしておる。妖怪どもは何をやっとるんじゃ、今こそ古から日本に住まう妖怪たちの出番じゃろうて」
「……小梅ちゃん、UMAさんたちは戦いにきたわけじゃないんだからね」
「いーや、わからん。俺様も長く生きておるが、モスマンとチュパカブラが存在するなんて思わんかったわ。一応魔王のクソ親父でさえ、見てみぃ、UMAを直視できずに瞬きせずテレビ直視したまま微動だにせんじゃろうて」
夏樹の背中に小梅が隠れながら、「攻撃せい! 先手必勝じゃ!」と叩いてくるが、夏樹とはしては友好的に接してくるUMAにいきなり攻撃するような非人道なことはできない。
「まあまあ、小梅ちゃんも銀子さんを見習って、ほら……あ、立ったまま笑顔で失神してるー」
「地味に器用じゃな。お、俺様もできるものなら失神したいんじゃが」
ジャックとナンシーの宇宙人枠といい、モスマンとチュパカブラといい、世界はファンタジー以外にも不思議がたくさんだ。
「それで、チュパカブラさんはモスマンさんのお迎え?」
「そうそう。いつまでも帰ってこないから。それに、――俺も今話題のなっちゃんに会いたくてな!」
チュパカブラはにかり、と笑った。
鋭い牙が光り、とても怖かった。