作品タイトル不明
31「ちょっとだけ無理してたんじゃね?」
祝福の神が門の神と共に消えると、夏樹と千手が肩から力を抜いた。
「森さん、片岡くん、巻き込んでごめんね。今から記憶を消すからちょっと待っててね」
「待ちなさい、由良! 記憶を消すって、その今虚空から取り出した棍棒で殴るとかじゃないわよね!?」
「はははは! ジョーク! 異世界帰りの勇者ジョーク!」
「このっ」
「まあまあ森さん。由良っちも空気を和ませてくれようとしているだけだよ」
夏樹のジョークは森には伝わらなく、彼女は拳を握って震えている。
そんな森を片岡が宥めていた。
「それにしても、せっかくお付き合い始めたのに初日から大変だったね」
「……そうね」
「ま、これを機に俺には関わらない方がいいよ。関わっても碌なことにならないからね」
「待ってくれ、あー、さっき会ったんだが覚えてくれているか?」
夏樹が、森たちとの関係を遮断しようとしたことに気づいた千手が割ってはいる。
「あなたは」
「さっきの」
「よう、さっきぶりだな。ひとつ、霊能関係者の大人から言わせてくれ」
「……はい」
森と片岡は千手をまっすぐに見た。
「俺は七森千手だ。霊能力者……なんて聞くと胡散臭く感じるかもしれないが、実際に俺みたいな裏稼業がいるのも事実だ」
そう前置きをして、話を続ける。
「巻き込まれた中学生にどんな言葉をかけていいのかわからねえが……由良が悪いわけじゃないことだけは誤解しないでくれ」
「千手さん!」
「うるせえ、由良! お前な、こういう場合は巻き込んだら突き放すんじゃなくて、面倒見るんだよ! 驚いたことはたくさんあるだろうし、説明もできることはする。だから、その」
「私は由良のせいなんて思っていません」
「俺もですよ。由良っちが悪いってわけじゃないでしょう」
千手の必死の言葉に、森と片岡は「誤解していない」と頷いた。
「由良は私のことなんて覚えていないかもしれないけど、小さい頃は遊んでいたし、幼馴染みだから。それに、私は性格がきついから嫌がらせされたことがあるけど、そんな私を守ってくれたのが由良だもんね」
「俺もカツアゲされたときに助けてもらったことあるよ。淫魔とか神様とかがいるのはびっくりしたけど、人間だって怖い人は怖いし、いつどこで事件に巻き込まれるかわからないから、気にしてないよ」
「ていうか! 私は気にしてるのはそこじゃないのよ! 由良が異世界帰りの勇者なら、あのクソ三原優斗も同じってこと!? 変な力持ってるでしょ!」
「あー、それは俺も思ってたかな。魅了とか絶対持ってそう! 異世界でチート手に入れてやりたい放題して帰ってきたって感じだよね」
夏樹は驚いた顔をした。
本当に驚いていたのだ。
異世界では、何かあれば夏樹のせいだと言われた。
助けても、「遅い!」と怒鳴られた。
街に被害が出ると、石を投げられ、唾を吐かれたこともある。
――だから、怖かった。
一登のように、幼い頃からずっと一緒だった家族ならそんなことはないとわかっていた。
だから、一緒にいることができた。
しかし、森や片岡はどうだろうか。
付き合いは、浅い。
森は幼少期から知り合いだが、親しいかと言われたら悩んでしまう関係だ。
片岡に至っては、クラスメイトでしかない。
そんな二人に、何を言われても、どう思われても気にしない――はずだ。
だけど、それでも、一度でも笑って接した人に厳しい態度を取られるのは、夏樹は嫌だった。
少し前なら、まったく気にしなかったかもしれない。
でも、今は、少し違うかもしれない。
異世界から戻ってきて、新しい出会いがあって、家族が増えた。友達ができた。
――今までの夏樹の心が強かったんじゃない。
――弱かったから、傷つきたくないと強がっていただけだった。
「それよりも、由良! 私にも教えてよ! 異世界とか、魔法とか、使えるものがあるのなら使ってみたいんだけど!」
「お、俺も俺も! 異世界の話を聞かせてよ!」
好奇心が強いこともあるだろうが、巻き込んでしまったことを一言も責めない森と片岡に、夏樹は涙が溢れそうだった。
そして、ふたりを突き放そうとした夏樹を止めてくれた千手にも、心から感謝した。