作品タイトル不明
22「千手さんの出動じゃね?」
七森千手は、アルフォンス・ミカエルが経営する『天使食堂』で結局ラーメンを食べていた。
「――替え玉!」
「はいよ!」
トッピング増し増しの味噌ラーメンを食べていた虎童子は、三回目の替え玉。
野菜も麺もあっという間に食べてしまう健啖さに、少食な千手は苦笑いだ。
「慌てて食うなよ、詰まらせるぞ」
「はーい」
千手は塩ラーメンと餃子をのんびり食べていた。
「はいよ、炒飯!」
「おー、きたきたー!」
「まだ食うのか」
炒飯が虎童子の前に置かれると、嬉しそうにレンゲを使って頬張っていく。
ラーメンがスープ代わりだ。
さすがにこれだけ豪快に食べられると気持ちがいい。
「まあ、飲めよ、千ちゃん」
「…………」
「いやー、それにしても千ちゃんのフィアンセは良い食いっぷりだな。ここは未来のパパが奢ってあげようじゃないか」
「…………なんでいるんだよ、おっさん」
「昨日、千ちゃんと感動の再会をしたあとに、小腹が空いちゃって、するといい匂いがするじゃない。もうおいしさに感動して通うしかないって思ったね」
「思うなよ」
千手の隣には、千手の父親である七森康弘が餃子を食べながらビールを飲んでいた。
まさか昨日の今日で、また父親と会うことになるとは思わなかったし、まだ向島市にいたのかというツッコミをしたいが、他にも客がいるためグッと堪える。
「まさか天使が食堂を経営しているなんて、時代だなぁ」
「時代で済ますな」
「ははは、向島市は水無月家のみずちがいたが、かの土地神は穢れていたと聞いている。しかし、向島市に被害はない。ならば自然と他に神々がいるとわかるものよ」
(いくらなんでもゴッド、サタン、ポセイドン、ルシファーがいるとは思うわけないだろうが、知らせたら知らせたで悪どいことを考えそうだからやめておくか)
「ただいまー! あ、千手さんいらっしゃい!」
「おう、小林。おじゃましているぜ」
父親を相手にせず、食事に集中していると、『天使食堂』で働く小林蓮が出前から帰ってきた。
「今さ、由良さんちにラーメンと餃子を届けてきたんだけど」
「ん?」
「知らない人がいた」
「……もしかして」
「感覚的に人間じゃないよね。またなんかお客さんかなって。千手さんは知らない?」
「いや、知らないな。俺はあっちから帰ってきてから体調不良でな。お休み中だ」
「そうなんだ。征四郎さんもちょっと体調が悪いって言ってたし、やっぱり俺もいけばよかったかな?」
「よせよせ。向こうの空気が合わなかっただけで、敵は大したことあったが、まあ問題なかったさ。小林が気にすることじゃねえよ」
「うん」
蓮は異世界にいかないことを気にしていたが、せっかくまっとうに働いているのにわざわざ荒事に首をつっこむ必要はない。
千手たちも活躍したにはしたが、夏樹だけでも問題なく解決していた可能性だってある。
もちろん、トラウマのある異世界にいく夏樹や祐介の支えとしては千手たちが必要だったことは間違いない。
「ダーリン、ダーリン」
「なんだ?」
蓮は虎童子や他の客に挨拶をすると、厨房の中に入った。
千手がラーメンの残りを啜ると、虎童子が指でつついてきた。
「携帯なっているんじゃない?」
「んん? なんだ、この【G・O・D】って登録した記憶が、うわぁ、これって」
間違いなくゴッドだ。
教えていない千手の携帯に電話するなどゴッドならば造作もないことだろう。
ものすごく嫌ではあるが、出るしかない。
「…………はい」
「こんばんは。みんなのゴッドです」
「あ、どうも」
しばし会話をする。
嫌そうな顔をしていた千手の表情が真顔になった。
「はい、失礼します」
電話を終えると、餃子を口に放り込んで手を合わせた。
「ごちそうさん。虎童子、悪いが、先に帰っていてくれ」
「ダーリン?」
「――仕事だ」