軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23「ホッケーマスクってちょっと怖くね?」

森陽菜と片岡慶は、向島市郊外の廃工場に転がされていた。

意識はある。

手足を拘束されているわけではない。

しかし、逃げようとはまるで思えない。

「……片岡くん」

「森さん、最悪の場合は俺を見捨てて」

小さな声で話をしながら、森は廃工場内を視線を彷徨わせる。

廃工場といっても、最近まで使われていたので窓ガラスはすべて健在だ。

出入り口がふたりから少し離れた場所にあるが、鍵がしまっているかどうか不明だ。

気絶した状態で運ばれたため、男女がどこから廃工場の中に足を踏み入れたのかわからないのだ。

(逃げようと思えば逃げられるかもしれないけど、怖い)

誘拐されたから怖い、のではない。

森が怖いと感じるのは、自分たちを攫った男女の前に椅子に座ってにこやかに微笑んでいる男だ。

顔は笑っているのに、まるで笑っているようには見えない。

笑顔で怒っているのとも違う。

「笑う」という表情が張り付いているだけで、男には何も感情がないように見えたのだ。

あまりにも不気味で、まるで人間ではないように思えてしまい、怖いのだ。

それは片岡も同じだ。

ふたりは支え合うように、強くお互いを抱きしめた。

「ちっ、鬱陶しいな。家畜の分際で……大人しくしていやがれ!」

ひとりの男が森たちの会話にイラついたように近づいてくると手を振り上げた。

森を庇うように片岡が抱きしめる力を強くすると、男はいいことを思いついたとばかりにいやらしい顔をした。

「奴が来るまで暇だからな、少し楽しませてもらおうか」

「いや、やめて!」

森はこれから自分に起こる最悪の事態に悲鳴をあげる。

しかし、男に腕を掴まれたのは森ではなく、片岡だった。

「――え?」

「――え?」

こんな状況であるが、森も片岡も変な声が出た。

「――ちょ」

「お前みたいな勝気な女は好みじゃねえ。こっちの少年はいい感じじゃねえか。なに、心配するな。痛いことなんてしないさ。彼女の前で女の子にしてやるよ!」

「いやぁああああああああああああ!」

叫んだのは片岡だ。

想定外の出来事だが、最悪の事態であることは変わらない。

「誰か、助けてぇえええええええええ! 片岡くんが女の子にされちゃうぅううううううううう!」

「ひひひひひっ、誰も助けなんてきやしね――――え?」

下衆な笑い声を廃工場に響かせていた男の腕が落ちた。

「え?」

「は?」

森も、片岡も、何が起きたのかわからない。

「いてぇえええええええええええええええええええ!?」

男が腕を押さえてのたうち回る。

血が流れているので、腕が斬られたかなにかしたのだろう。

だが、いつ、どこで、どうやって、誰が、と森は混乱する。

――こつ、こつ。

廃工場に靴音が響いた。

「――誰だ!」

誘拐犯の男女が靴音がした方向を睨む。

すると、影の中から――頭にCDを乗せて、ホッケーマスクを被った何者かがいた。

「ひぃっ」

誘拐されたのとは違った意味で怖い。

ホッケーマスクの第三者はふしゅー、ふしゅーとくぐもった呼吸をしている。

怯えている森と片岡は気づけなかったが、ホッケーマスクの何者かは中学校の制服を着ていた。

「貴様っ! 何者だ!」

誘拐犯が唾を飛ばすと、ホッケーマスクの少年は手にしていたナタを高く掲げた。

「――俺は、ギャラクシー河童勇者モスマンと春の金曜日を添えて」

「意味がわからん!」