作品タイトル不明
20「森さんのファーストキスが失敗じゃね?」
森は片岡と一緒に公園のベンチに座っていた。
会話が弾む。
もうすぐ日が沈むが、春というだけあり暖かいので帰る理由にはならない。
(あー、幸せ。勇気出してよかった!)
ゲームの話をした。
新しいスマホが欲しいと笑った。
今度、一緒にゲームを買いに行く約束をした。
瞬く間に時間が過ぎていく。
時間が止まればいいのに、と森は思う。
恋心が実った今日が、森にとって一番重要な日になるだろう。
こんな心踊る日は二度と訪れないかもしれない。
(い、勢いに任せちゃおうかしら。そ、それとも、もっと時と場合を考えるべき? わ、わかんない! どうして学校って恋愛の授業がないの!?)
告白はした。
良い返事をもらえた。
手を繋ぎもした。
ならば、次にすることは――キスしかない。
心臓が高鳴る。
気づけば、森は片岡の唇を見ていた。
視線に気づいた片岡が、息を呑む。
ふたりの視線が合った。
初々しい熱を帯びた視線だった。
ふたりの瞳が揺れる。
恥ずかしさから逸らすこともできたが、森も片岡もしなかった。
どちらからともなく唇が近づく。
唇と唇が近づこうとしたその時、
「――見つけた」
不躾な第三者の声が響いた。
「――え?」
「うわっ」
キスをしようとした瞬間を誰かに見られたと慌てて森と片岡が離れる。
声はあまりにも近かった。
自分たちに向けられたのかと周囲を伺おうとして、硬直した。
「あ、あ」
「……なん」
森も片岡も言葉が出ない。
なぜなら、ベンチを囲むように男女が五人立っていった。
誰だ、という疑問もある。
五人が容姿端麗であるということにも驚いた。
そして、目に悪意が宿っていることにすぐに気づいた。
「片岡くん、走って!」
森の判断は早かった。
伊達に向島市で中学生をやっているわけではない。
由良夏樹、三原兄弟の幼馴染みである以上、いらぬ厄介ごとに巻き込まれたことは多々ある。
そこで学んだのだ。
――やばいと思ったらとりあえず逃げろ、と。
片岡の腕を掴んでベンチから飛び出す。
森だけじゃなく、片岡も逃げる選択をしていたようでふたりの呼吸は合っていた。
片岡は森と自身のスクールバックを掴んで一緒に走り出した。
目の前に立っていた女が手を伸ばすよりも早く、彼女の横を抜け、公園の外に向かう。
「あーら、ダメよ」
しかし、背後にいたはずの女が公園の入り口に立っていた。
「え?」
「家畜風情が手間を取らせないでくれない?」
女はそう言って手を振るった。
叩かれる、と森が身を固くしたと同時に、片岡の身体が倒れた。
「片岡くん!?」
「あらあら、可愛い王子様ね。女の子を身を挺して庇うなんて、素敵だわ」
「なんてことするの!」
片岡に駆け寄りたい衝動と目の前の女を殴りたい衝動に駆られ、森は後者を選んだ。
しかし、背後から首に衝撃が与えられて、意識が遠のく。
「ちょっと、家畜でも女の子は大事にしないと」
「黙れ。茶番はいいから、早くこのふたりを、あのお方のもとへ連れていくぞ」
「はいはい。まったく、人間程度にやられた屑のために敵討とかつまんないのー、ってうそうそ、睨まないでよぉ」
女――淫魔は、森を担ぐ。
片岡は他の淫魔が担いだ。
「いくぞ」
「はいはい、じゃあ、新たな神々の祝福の神様のところへ連れて行きましょうねぇ」