作品タイトル不明
19「森さんは青春じゃね?」
森陽菜は同級生の片岡慶と一緒に夕方の向島市をゆっくり歩いていた。
ふたりの家は近いが、少し遠回りして帰っている。
その理由は簡単だ。
――今日から付き合い始めたばかりなのだ。
「さっきのお兄さん、早く元気になるといいね」
片岡は心配そうに、先ほど調子悪そうにしていた男性――七森千手を今も心配していた。
「そうだね。本人が大丈夫だって言っていたから、私たちがとやかく言っても迷惑に思われちゃったかもしれないけど」
「そんなことないよ。森さんの優しいところは、その、素敵だと思う」
「――っ、片岡くん。て、照れちゃうな」
森は、中学一年から抱いていた想いが成就したことに喜びを隠しきれない。
(まさか、由良に発破をかけられて片岡くんに告白して成功するなんて。まるで夢のようね)
片岡とは小学生から知り合いだが、中学生になってから仲良くしていた。
お互いに、ゲームが好きで、コミックやライトノベルも楽しむので会話が弾んだ。
ときどき、一緒にゲームをしたこともあったし、買い物にも行った。
中学生だし、恋人にならずとも友人として仲良くできていればいいと思っていたが、そんな時に現れたのが萌乃萌葱だ。
教師として面白いことは認めるが、言動がおかしい。まるで幼馴染みの由良夏樹のようだと素直に思った。
(由良も三原がいなければもっと友達がいたのに)
幼馴染みの夏樹との付き合いは幼稚園の頃からだ。
そうなるとセットで三原優斗がいた。
幼稚園児でも「なんかきもい」と思ってしまう優斗に付きまとわれてしまったせいで、夏樹は人が嫌いになったように見える。
三原の弟である一登くらいだろう。夏樹とありのままに接することができる相手は。
死んだ三原優斗を悪くいいたくはないが、屑だ。その被害者たちと一応は親しいようだが、友達とは言えないだろう。
(由良だってゲームが好きなんだから、私や片岡くんと一緒に遊ぶことだってできたのに。残念よね)
思えば片岡と喋ったきっかけは夏樹にあった。
中学一年生の頃、積極的に話しかけていた片岡をまともに相手にしない夏樹の頭を引っ叩き、片岡にフォローを入れたことで親しくなったのだ。
聞けば、片岡は友人が三原兄の被害者であった。片岡は友人のためにふしだらな三原兄を咎めると、奴の信者のような女が男子高校生を連れて痛めつけに来たのだ。
そんな片岡をふらりと現れた夏樹が助けた――と、言えば聞こえがいいのだが、男子高校生はボコボコにされたあげくパンツ一枚の姿を記念撮影された。男子高校生を嗾けた女子は、よくわからないが引っ越してしまった。
助けたというには過剰だったような気がするが、片岡と彼の友人にとって夏樹は颯爽と現れたヒーローのように映ったようだ。
「森さんと付き合うことになって嬉しんだけど、なんだかちょっと気恥ずかしさがあるよね」
「うん。今までも一緒に帰ったことはあるし、お互いの家でゲームだってしたし」
「休日に買い物にもいったもんね」
「――うん」
森は、なんとなく公園に向かって歩いていることに気づく。
(――もしかして、公園で初チューとかワンチャンあるんじゃないかな!?)
胸が高鳴る。
中学三年生の森陽菜は幸せだった。