作品タイトル不明
84_突然の瘴気だまり
討伐、討伐の連続の忙しい毎日の中、少し時間が出来たのでプリメラ様とショーン様のところへ魔力マッサージの練習にお邪魔することにして、セルヒ様と一緒に街中に出ると、何やら皆さんが盛り上がっていて。
「なんですかね?今日は何かお祭りでもあっているんでしょうか?」
「そんな予定は聞いていないが……気になるなら見に行ってみるか?」
そんな会話をして、賑やかな一帯に近づいて……驚いてしまった。
そこには街の皆さんに囲まれて笑顔を浮かべるリゼットがいたのだ。
(こ、こんなところでリゼットに会うなんて……!)
リゼットはすごく忙しくしているし、街中でも「聖女様は尊き存在だから、なかなかお目にかかれない」とか、「あたしらみたいな貧乏人はどうやっても会えないのかね?」「今は魔物が多いんだろう?それが落ち着いたらパレードでもやってくれたらいいのになあ」なんて声が聞こえてきていた。
だからまさか、変装してお忍びで、というわけでもなく、こんな風に堂々と街中を歩くことがあるなんて思いもしていなかったのに。
咄嗟に、この場から早く立ち去った方がいいのでは?と思ったけれど、その瞬間には私に気づいたリゼットともう目が合ってしまった。
優しく微笑んでいたリゼットの目が一瞬で険しいものになって、思わず身構えてしまう。
だけど、そんな私の背中に、セルヒ様の温かい手がそっと添えられる。
……うん、大丈夫。こうして顔を合わせた瞬間はやっぱりちょっと動揺してしまうけれど、ただそれだけ。
「どうする?このまま無視して立ち去るか?なんなら俺がリゼット・リーステラに対峙して、ルーツィアは隠れていてもいい」
こっちに近づいてくるリゼットを見ながらセルヒ様がそう小声で聞いてくれる。だけど、私はそれに小さく首を横に振った。
前も大丈夫だったから、今回もきっと大丈夫。
それに、私と話してもつまらないってリゼットが気づいてくれたら、そのうちこうして偶然顔を合わせてしまっても放っておいてくれるようになるんじゃないかな。
そんな風に思って、リゼットに強い口調で責められても、私はただ事実を淡々と返したのだった。
──ギズリ様がリゼットを宥めてくれようとしたことにはびっくりした。
その後、ソレイユ様に酷く責められて、街の皆さんの私へ向ける目の温度が変わって。
どうしようって思ったけど、大きな音とともに突然現れた瘴気だまりに、すぐにそれどころじゃなくなった。
「皆さん!大丈夫です、安心してください。幸運にも、今ここには私がいます!すぐに瘴気だまりを浄化します!」
リゼットがそう声を張り上げながら、ギズリ様やソレイユ様とともに駆け出すと、動揺と恐怖が広がっていた街の皆さんの間に、安心と期待、そして興奮の歓声が起きる。
「そ、そうだ!聖女様がいる!何も恐れることはない!」
「ああ、私達はなんて幸運なのかしら?こんなにも恐ろしいことが起こったというのに、不安を一瞬で消し飛ばしてもらえるなんて」
「むしろ、聖女様の浄化を目の前で見ることができるってことだよな?こんなこと、早々ないぞ!」
「ぼくも聖女様のすごいところ、見たいー!」
街の皆さんは、遅れてリゼットについていく。
リゼットはどんどん力を増していて、最近では瘴気だまりも一瞬で消すことができるとは聞いているけど……避難するどころか瘴気だまりの方に近づいていくような皆の行動に、不安を覚える。
これって、大丈夫なのかな?
「まずいな。すぐに瘴気だまりが浄化されたとしても、瘴気だまりの強さによっては魔物が発生する可能性がないとはいえない。人が集まるのは危険だ」
「やっぱり、そうですよね?」
ギズリ様やソレイユ様もいるとはいえ、ひょっとすると怪我人も出てしまうかもしれない。
それも、きっとリゼットがすぐに治癒してくれるだろうけど、怪我をする痛みは負ってしまう。
できるなら、辛い思いはしてほしくない。
「セルヒ様」
私が名前を呼ぶだけで、セルヒ様は言いたいことをすっかり理解してくれて、頷いてくれた。
「俺は念のため民たちの安全を確保する。瘴気にあてられて体調を崩すものがいれば、ルーツィアの魔力マッサージの出番もあるだろう。行こう」
「はい!」
すぐにリゼット達に続いて駆けつけた先で、瘴気だまりは、広場の噴水を完全に丸ごと飲み込むようにして生まれていた。
噴水の代わりに、瘴気だまりから禍々しい瘴気がキリが漂うようにしてぶわりぶわりと溢れはじめている。
そこに広がるのは、以前見たものより大きな瘴気だまりと、その前に立つリゼット、そしてその周りを取り囲むように円になり集まる街の人達という、異様な光景だった。