軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

83_世界は私を中心に回っている③(リゼット視点)

「聖女様、聖女様!」

「ああ、まさか私なんかが、聖女様にお会いできるなんて……!」

「ふふ、そんなこと言わないで。『私なんか』なんて。なかなかこうして顔を合わせる機会が作れなくてごめんなさい。だけど、私は皆さん全員のことを大切に思っているし、皆の幸せのために頑張りたいと思っているの」

私の言葉に、またもやワッと歓声が上がる。

そうやって愛想を振りまいて、皆を喜ばせてあげて……ふと視線を向けた先に、ルーツィアがいた。

は?嘘でしょ?なんでこんなところにルーツィアが?

おまけに、今日もその隣にはセルヒ様がいる。

何よ、あの二人!なんだかいつも一緒にいない?私の護衛は断っておいて、ルーツィアなんかのそばにいるなんて……許せない!

せっかくいい気分だったのにそれを台無しにされて、一気にイライラが湧きあがってくる。

私を見て驚いた顔をしているルーツィアのところに、足早に近づいた。

ルーツィアは身構え、セルヒ様はルーツィアを支えるように立つ。

そんな姿に、さらにいら立ちが募る。

「ルーツィア。まさか、私がここに来るって分かってて、いつもみたいに私に嫌がらせするために、わざわざ待っていたの?」

もちろん、本気でそんな風に思っているわけじゃない。だって私がこうして市井に遊びに来たのも、フォーの提案で急遽決まったことだもの。

だけど、腹が立って、どうにかルーツィアが悪いということにして責めたくて仕方がない。

「違うわ、リゼット。あなたが来ることは知らなかった」

それなのに、ルーツィアはただ冷静にそう答えるだけ。

今までなら焦って必死に弁解してきたはずなのに、今のルーツィアにはそんな素振りは微塵もない。

……なによそれ。いつもみたいに私の顔色をうかがって機嫌をとろうとしなさいよ!

「リゼット様、ここに来ることは急遽決まったことです。さすがにルーツィア嬢が言っていることは本当かと……」

「ひどい!ギズリ、私のことを信じてくれないの!?」

「リ、リゼット様」

ギズリは私を戸惑った目で見ている。

そんな目で私を見るなんて、やめてよ!なんだか私がおかしなこと言っているように見えるじゃない!?

「ギズリ!リゼット様の言う通りだ。まさかリゼット様を長年虐げ続けたルーツィア・リーステラの戯言などを信じるつもりじゃないだろうな?」

悲し気な表情を作っている私を庇うように、ソレイユがギズリを睨みつける。

やっぱり、ソレイユはよく分かっているわね!

私とルーツィアのやり取りを戸惑い気味に見ていた市井の皆が、私の反応とソレイユの言葉を聞いて、一気にルーツィアに不信の目を向け始める。

「……あれ?」

皆の反応が嬉しくてもう一度ルーツィアを見ると、その懐で何かが震えているのが見えた。

あれは……獣?

そういえば、前も現場で会った時に、何かを連れていたような。そうだ、あの時、私に魔獣を治癒させようとしていたんじゃなかったっけ。

あの時は気づかなかったけれど、その姿にはどうにも見覚えがある気がして、記憶の中を探る。すると、心当たりを見つけた。

「どうしてそれと一緒にいるの?」

「え?えっと、魔獣ちゃんは少し弱っているから、なるべく私がいつもそばにいることにしていて……」

「そんなことを聞いているんじゃないんだけど」

「?」

不思議そうなルーツィア。本当に鈍くて困る。

私は、どうして 私(・) が(・) 捨(・) て(・) た(・) そ(・) の(・) 獣(・) が、ルーツィアの側にいるのかって聞いているんだけど。

そう、ルーツィアが連れている小さくて弱そうな魔獣は、私が神獣召喚の儀を行った時に間違えて出てきた、ボロボロでみすぼらしくて見れたものじゃなかったあの獣だった。

(まあ、ルーツィアにはお似合いの獣だとは思うけど)

チラリと隣に視線を送る。私にぴったりのフォーが悠然とルーツィアと獣を見ていた。

惚れ惚れするような美しさに、思わずにんまりと口角が上がる。

それなのに、ルーツィアはそんなフォーの視線を意にも介さず、懐の獣を撫でてやっている。

「大丈夫よ、魔獣ちゃん。私がいるから、何も怖くないよ」

獣はルーツィアの手と声に安心したのか、目を細めて甘えている。

そして、それを呆然と見ている私に気づいたのか、ルーツィアに見えないようにこちらを向くと、睨みつけるような目つきに変わった。

なによそれ?

私に契約してほしくて、神獣でもないくせに神獣を召喚するための魔法陣に割り込んできたくせに!

そんな獣を可愛がって、私を不快にさせるなんて、やっぱりルーツィアはひどい!!

私の中の全ての負の感情が、ルーツィアへ向いていく。

──あれ?

私の中にふつふつと湧きあがる苛立ち、不快感、怒り、ルーツィアをどうにか傷つけてやりたいと思う気持ち……それとは別に、頭のどこかで違和感を覚える。

──私、こんなにもルーツィアに対して、嫌な気持ちを抱いていたっけ?

前からルーツィアのことは気に食わなかった。だけど、こんなにも胸をかきむしりたくなるような、頭が沸騰してしまいそうなほどの気持ちが湧くようになったのはここ最近な気がする。

前は、もっともっと面白がる余裕だってあったのに、今は怒りに支配されてしまうような感覚で、ルーツィアを傷つけなければ、もっともっと、もっともっともっと傷つけなければって、そればかりになって──……。

いやいや、ルーツィアが調子にのったことばかりしているから、前よりもムカつくし、イライラするんだわ。

それに、私が捨てた獣を大事にしているのもなんだか気に食わない。あの生き物、あのまま死んだと思ったのに!

それもこれも、全部全部!ルーツィアが悪い!ルーツィアのせいで、私の感情が逆なでされている!

……本当に?

少し前に神教会を追放された女神官の顔がなぜか浮かんできた。

そういえば、あの子もルーツィアと同じようにムカついたんだった。

というか、最近、前よりもイライラすることが増えて、時々他の神官にもあたっている。

前はルーツィアに苛立ちをぶつけていれば、それだけでよかったのに。ルーツィアが近くにいなくなったことで、ストレス発散ができなくて、モヤモヤしちゃうのかな。

でも、それにしたって、異常にイライラするの。

フォーと話している時と、瘴気だまりを浄化している時は、楽しくて仕方ないのに。

感情に溺れそうな自分と、そのことに疑問を抱く冷静な自分がいる。

頭が真っ白になりそうになったその時だった。

──どろり。

どこかで音が聞こえた気がした。

その音に、一気に意識を持っていかれる。

(なに……?)

少し周りを見渡してみるけど、そんな鈍い音が聞こえるようなものは何もなさそうで。

それなのに、またもや音が聞こえる。

──どろり、どろり……。

どこから、なんの音がしているのか気になって、意識を集中させて、気付いた。

この音……頭の中で聞こえている?

そう思った瞬間、どこからか大きな爆発音が響いた。

「きゃああ!」

「うわ、な、なんだ!?」

次々にあがる悲鳴。

爆発音のした方へ振り向いた時には、すでにソレイユが状況を把握していたようで、叫んだ。

「あれは……瘴気だまりだ!なぜこの一瞬で瘴気だまりが発生したんだ!?それも、こんな街中で……!」

たしかに、瘴気だまりの気配がする。たくさん見てきたから、私にもすぐに分かった。

さっきの頭の中に響いていた音って、ひょっとして瘴気だまりができる音だったのかな?

私、ついに瘴気だまりが発生する瞬間まで分かるようになっちゃった!?

うふふ、こんなの、聞いたこともない!きっと私以外、そんなことできる人がいなかったんじゃないかしら?

自分のすごさに、我ながら感動してしまう。

どうしてこんなところに突然瘴気だまりが出来たんだろうって、私だって不思議だけど。

でも、そんなのはソレイユが後で調べればいいことだから、すぐに別に気にならなくなった。

それよりも、私は……すごく興奮していた。

(やった!これで、私の力をみーんなに見せつけることができる!)

同時に、一緒にいるルーツィアの無能さもはっきり分かってしまうわね。

わくわくが止まらない。

瘴気だまり、どうせできるなら街中にできればいいのにって、何度も思った。

さっきまで抱いていた、自分の感情に対する違和感は、もうすっかり忘れ去っていて。

私はにんまりと笑ってしまいそうになるのをなんとか抑えながら、ソレイユとギズリと一緒に、すぐに瘴気だまりが発生した地点へと急いだ。