軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話「チュートリアルは終了!! ここからが本番です!!」

「まあ.......大丈夫なわけがねえよな」

そうは言ったものの自分でも驚くほど、どこか納得をしていることに苦笑がこぼれる。

「……ああ」

妙に、しっくりきた。

この感覚を知っている。

壊れた封印、暴走した地脈......

俺はいつも、その中心で“これ”を感じていた。

まるで、ずっと探していたものを、ようやく見つけたみたいに。

「レイン」

セレフィーナが小さく名前を呼ぶ。

振り返ると三人とも顔色が悪かった。

無理もない。普通の人間なら、この場にいるだけで恐怖する。

だが——

俺の胸にあったのは、恐怖じゃなかった。

黒い亀裂が脈打つ。

その瞬間.......闇の中から、“何か”が現れた。

ーーー人型

だが、人間じゃない。全身が黒い靄で構成され、顔がない。

空洞だった。

なのに——なぜか笑っているような気さえした。

「っ……魔物!?」

アイラが剣を構える。

コンマ1秒........その一瞬とも言える時間が流れた時、短い黒い影が消えた。

「——え」

視界から消失。

「瞬間移動か!?」

そう理解した時にはもう遅かった。影がアイラの目前へ現れる。鋭く伸びた黒い腕が、彼女の喉へ迫った。

「アイラ!」

セレフィーナが叫ぶ。

誰も間に合わない......そう思った、その刹那。

——ギィンッ!!

金属音みたいな音が響き、黒い腕が空中で停止している。いや......

止められていた。

そう、俺の右手に。

「……なかなかいいスピードしてるじゃねえか」

静かに言う。

黒い腕へ触れた瞬間、冥境の門印が淡く発光した。途端.....魔物が初めて“怯えた”。

空洞の顔がぶるりと震える。本能で理解したのだろう。触れてはいけない存在へ触れたと。

「逃がしはしねえよ」

俺はその腕を——握り潰した。

バキンッ!!

空間ごと砕けるような音。

黒い腕が霧散し、魔物が絶叫した。耳ではなく、頭の中へ直接流れ込む悲鳴。

空気が揺れる。

アイラが震えた声を漏らす。

「……な、に……今の……」

だが終わらない。

亀裂の奥から、次々と黒い影が這い出てくる。

一体、二体、三体、そして十を超えた......闇が地下水路を埋め尽くす。

普通なら、絶望する光景。

ーーーだが

俺の胸は、妙なほど静かだった。

「レイン……!」

セレフィーナが俺を見る。

不安、恐怖、そして——信頼。

その全部が混ざった瞳だった。だから俺は、一歩前へ出る。闇の群れと真正面から向き合った。

冥境の門印が脈動する。

黒銀色の紋様が、右腕を侵食するように広がっていく。空気が変わり、一段階温度が落ちる。

闇たちが、一斉に後退した。

怯えている。

まるで“格上”を前にした獣みたいに。

その刻だった......

俺は、理解した。

なぜ自分がこの力を恐れなかったのか、なぜ死神紋章を呪いだと思わなかったのか。

簡単だった。

——こいつらなんかより

俺の方が、ずっと長く.......“畏怖の念”を抱く対象として君臨し続けていたのだ。

「——〈朱雀門・開門〉」

その言葉が紡がれた瞬間。

世界が、息を止めた。

地下水路を満たしていた湿った空気が、一瞬で熱を帯びる。いや、熱いという表現では足りない。空間そのものが“燃え始めた”のだ。

俺の右腕に刻まれた冥境の門印が、脈動する。

どくん。

どくん。

まるで、心臓みたいに。

黒銀色だった紋様が、ゆっくりと赤黒く染まっていく。まるで溶岩が血管を流れるみたいに、灼熱の光が腕を這い上がった。

その瞬間......

——ゴゥッ、と。

重々しい荘厳な音とともに、背後に“門”が現れた。あまりにも巨大........到底、普通の人間には出すことはできないだろう。

そう、“普通”の人間ならば、の話。

「すまないが、俺はお前らみたいな質より量で押し込んでくる、群れなきゃ勝てねえやつとは........格がちげえんだよ」

あまりにも巨大で、地下水路の天井すら歪んで見える。

“漆黒の門”

表面には無数の古代文字が刻まれている。それらは生き物みたいに脈打ち、赤い光を滲ませながら浮かび上がっていた。

なんと幻想的なのだろう。

ただ存在しているだけで、空気が震える。

まるで世界そのものが、この門の出現を拒絶しているみたいだった。

開門、と言い放った俺自身の言葉に合わせるように、呼応し出す。

「お前らには悪いんだが、実力を理解した俺は最強だぞ?」

闇の魔物たちが後退する。

空洞の顔を歪め、悲鳴みたいなノイズを漏らしながら。

体よりも先に、頭が理解してしまったのだろう。

この門の向こう側にあるものは、自分たちでは絶対に届かない“死”そのものだと。

俺は静かに右手を持ち上げた。

すると......

ギギギギギッ——。

世界を削るような音と共に、朱雀門がゆっくりと開いていく。

隙間から、光が漏れた。

赤い。ただ、普通の炎ではない。

黒を溶かしたみたいな、禍々しく、それでいて神聖な炎。その炎を見た瞬間、周囲の温度が一気に跳ね上がる。

石畳が溶け、地下水路の水が蒸発する。白い蒸気が爆発的に広がり、視界を覆った。

だが........

不思議と俺だけは熱くなかった。

むしろ、心地よい。

帰る場所へ帰ってきたみたいな、そんな感覚だった。

「——焼き尽くせ」

静かに告げる。

ーーー朱雀門の奥から、黒炎が溢れ出した。

轟音、続いて爆炎。

それは“火”なんて生易しいものじゃない。存在そのものを灰に変える、終焉の奔流。

黒炎が空間を舐めるたび、魔物たちが悲鳴を上げながら崩壊していく。肉も骨も魂も関係ない。ただ触れた瞬間、“存在”という概念ごと消滅していった。

闇が焼かれると同時に、悲鳴が消える。

地下水路を埋め尽くしていた絶望が、一瞬で灰になっていく。

その光景は、圧倒的だった。

まるで——神話。

破滅を司る災厄が、そこに立っているみたいだった。赤黒い炎が、俺の横顔を照らす。

雨の日の静かな少年とは、まるで別人だった。

瞳の奥で揺れていたのは、怒りでも憎しみでもない。ただ静かな——何者にも干渉しえない絶対的な力。そして魔物たちは最後に理解する。

自分たちが立ち向かってしまったのは、“怪物”ではない。

——災厄そのものだったのだと。

魔物たちが消し飛ぶが、断末魔すら残らない。いや、残さない。

「俺に立ち向かえる、その勇気だけは褒め称えよう。ただ.......少々、おいたがすぎるぞ。あまり、調子に乗るものではないとだけ言っておこうか、雑魚の集まりが」

ただ、“存在”ごと焼き潰されていく。

圧倒的だった。暴力的なまでの力。なのに、不思議と制御できている。暴走する感覚がない。むしろ馴染む。最初から、自分の一部だったみたいに。

闇が消え、静寂が落ちた。

水滴の音だけが響く地下水路で、俺はゆっくり振り返る。三人とも、完全に固まっていた。

特にアイラ......

口が開いたまま閉じていない。

エリクが乾いた声を漏らす。

「……お前さ」

「なんだその顔は?」

「その力、本当に人間か?」

少し考える。

それから、俺は小さく笑った。

「さあ? 最近、自分でも自信なくなってきた」

軽口のつもりだった。

だが、次の瞬間——

ギギギギギッ、と、空間の裂け目が、再び脈動した。今までとは比べものにならないほど深く、重く。冷たい“何か”が、向こう側で目を覚ます。

空気が凍った。

セレフィーナの顔色が変わる。

「……嘘」

エリクが呆然とした顔でその光景に目を見開く。

アイラが震えた声を漏らした。

「ま、まだ……いるの……?」

違う。これは、さっきの連中とは別格だ。俺の門印が、警鐘みたいに激しく脈打つ。

そして、そして、そして......

闇の奥で.......“何か”が笑った。

——ぞわり。

背筋が粟立つ。初めてだった。この力を持ってから、初めて。俺から相手に“畏怖”という感情を抱く。

そうだ、俺はその瞬間、初めて“敵”を前にした感覚を覚えた。