作品タイトル不明
第17話「今どきここまでのクズ珍しいな!!!」
「噂通り、綺麗だな。俺のものになる気はないか?」
開口一番、それだった。
セレフィーナがわずかに表情を固くする。
でもゼルドは気づかない。
いや、気づいていて気にしていない、そんな可能性すらあった。
「僕の講義、どうだったかな?」
「とても勉強になりました」
「はは、優等生にありがちな返事だな」
ゼルドが笑いながら、一歩近づいた。
近い。明らかに近い.......
「君みたいな強くて綺麗な女、嫌いじゃないんだよな。どうだ? 今度、街でも案内してくれないか」
「お断りします」
即答だった。その対応が気に食わなかったのか、ゼルドが少し眉を上げる。
「そんなにすぐに断らなくたっていいじゃないか。理由を聞いても?」
「私には運命の番がいますので」
「.......番?」
「竜族の契約相手のことです。そこら中で講義をやってるわりには知らないことも多いんですね。もしかして......女性にかまけていて、とか?」
「へえ、この僕にそこまで偉そうな口の聞き方をしてきた女は君、が初めてだよ。それで.......」
ゼルドが興味深そうに笑い、そして——その視線が俺へと向く。
頭から足先まで、一瞬で見られる。
「……これが?」
「“これ”って......そんなものみたいな言い方することないだろ。一応、俺は人間なはずだぞ」
「悪い悪い、嫌な気持ちにさせてしまったのなら申し訳なく思うよ」
全然悪いと思っていない声だった。
「でも意外だな。もっと強そうな男を想像してた。ずいぶんと細くてひ弱いそうじゃないか」
「戦闘は苦手なもので.......」
「ははっ、否定しないのか、なかなか面白いじゃないか」
ゼルドはこちらの逆鱗の少し隣を逆撫でさせるような、そんな笑い方で笑う。
「.......だがこの男では君と少々釣り合わないだろ。竜王の娘に、そんなひ弱な男では不安も残るまい」
「釣り合うかどうかは俺たちが決めるので」
「随分と綺麗事並べるのだな」
「事実です」
セレフィーナが静かに前へ出た。
「私がこの方を選びました。それだけのことなのですよ」
「理解できんな」
ゼルドは肩をすくめる。
「女は守られてる時が一番綺麗だろ。男に甘やかされて、囲われて、大事にされてりゃいい。強い女も嫌いじゃないが、結局は“上に立てる男”が必要になる」
空気が少し冷え、セレフィーナの目が静かに細くなる。
でもゼルドは止まらない。
むしろ、自分の言葉に酔っているようだった。
「君ほどの女なら、隣に立つ男も相応じゃなきゃダメだ。少なくとも——そんな守られる側みたいな男じゃ話にならない」
その時だった。
「……ねえ」
アイラが口を開いた。
「さっきからさ。レインのこと、結構好き勝手言ってるけど......」
ゼルドがアイラを見る。
そして——にやりと笑った。
「お前もなかなかいいな」
「は?」
「元気なの、嫌いじゃない。腰回りもしっかりしてるし、戦う女って感じだ」
視線が露骨だった。足、腰、胸元、順番に眺める。隠そうともしない。
「鍛えてる女は好きだ。健康的でな」
「……」
「お前、結構モテるだろ」
「触ったら腕を折りますよ」
でもゼルドは笑ったままだった。
「気が強いのもいい。暴れる女を従わせるのは、嫌いじゃないからな」
「っ……」
アイラの拳が震える。周囲の女子生徒たちも露骨に引いていた。それでもゼルドは気づかない。
いや、気づいていて気にしていない。
「セレフィーナがダメなら、お前でもいいぞ。遊ぶには楽しそうだ」
「......っ、本当に気持ちが悪い」
「そういうタイプ、結構好きなんだよ。夜でも体力はありそうだしな。俺を何度も楽しませてくれそうだ」
「…………」
アイラのこめかみに青筋が浮いた。
ゼルドはさらに続ける。
「セレフィーナは面倒そうだが、お前くらい素直そうなのも悪くない。どうだ? 一回付き合ってみるか?」
その瞬間、アイラが前に出ようとした。
でも——その前に......
「アイラさん」
俺は一歩前へ出た。
アイラが止まる。
たぶん、俺の声がいつもと違ったからだ。自分自身でもわかっていた。
少しだけ、ほんの少しだけだが、レノンの周りだけ温度が低かった。
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「一つ、聞いていいか、そこのクズ」
俺はゼルドを見た。
「ほう、この僕にそんなことを平然と言うか。なかなかいい度胸をしているな.......なんだ? 好きに言ってみろ」
「今の発言、本気で言ってんのか?」
「もちろん、僕は博愛主義者なものでね」
ゼルドは悪びれもせずに笑う。
「女なんて口説いてなんぼだろ。綺麗なら褒めるし、気に入れば誘う、抱きたく慣れば抱く、すべて男の言いなりになる。言わば“道具”だ。それの何が悪い?」
「セレフィーナを“これ”って言い、アイラを品定めみたいに見た、それらの行為にも何となく合点がいった」
「やっと君もわかってくれたか! それなら話が早い、彼女たちを私の元へよこすんだ」
「やっぱり、ここまでのクズは最近となっては珍しいな」
俺は静かに息を吐いた。
怒鳴りたいわけじゃなかった。
しかし.....
怒っているのだ、自分にここまでの怒りの感情が眠っていたことに驚きを隠せずにいる。
「二人とも、俺の大事な人なんだよな」
「だからなんだ?」
「だから——嫌だ、と言ってるんだ。少しはそのデカい頭にある脳を回転させてみたらどうだ」
ゆっくりと、右袖をまくると、黒い紋章が現れた。
“死神紋章”
その瞬間、空気が変わった。
光が薄れ、影が濃くなる。周囲にいた生徒たちが、本能的に後ずさった。 ざわめきが消える。
ゼルドの気味の悪い笑みが、初めて止まった。
「……これは」
「外部者のあんたは知らないことかもしれないが、実は俺.......死神紋章持ちなんだよね」