軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話「朱雀門ってなんかかっこよくない?」

「実は俺.......死神紋章持ちなんだよね」

俺の声が、静かに廊下に落ちる。

ただただ淡々とした声が学校に響く。それに答えるように——死神紋章から滲み出る黒い光が、廊下の空気をじわりと塗り替えていた。壁の影が濃くなり、天井の光源が薄れていく。空気の温度が、一段だけ下がった。

周囲の生徒たちが、じりじりと後退していった。本能が「近づくな」と言っているのだろう。

ゼルドだけが、動けなかった。

足が、地面に貼りついたみたいに止まっている。英雄と名乗る男が、死神紋章の黒い光の前で——初めて、前に出られなくなっていた。

「……」

「まあその感じだとさっきの言葉を撤回する気はねえよな、一応最後に情けはかけてやるよ」俺は続けた。「セレフィーナとアイラに——謝れ、このど三流」

「ふざけるな」ゼルドの声が少しかすれる。

「死神紋章持ちごときが俺に指図するのか。制御もできない呪いを振りかざして......というか、紋章持ちは全員早死にするということを聞いたことがある気がする。そんな、自分の弱さを開示するような真似をして一体何ができると——」

「あ.......俺一応、制御できるんだよ」

「は.......?」

「今も、してはいるがな。完全に出してしまったら、学校どころか、この街ぐらいは裕に消し飛ぶってことを最近知ってな、今はほんの一部だけしか出していない——」

俺が少し扉を開けると、黒い光が一段濃くなった。廊下の窓ガラスが、内側から圧を受けたように軋み、足元の石畳がほんの少し——沈んだ

「——っ」

きっと無意識だったのだろう、あそこまで俺の事を下に見ていたゼルドが、後退した。

「大陸最強の英雄が、後退しちゃってもいいのかな?」アイラが後ろから楽しそうな声色で嘲笑うように尋ねる。

「やっぱりレインは、かっこいいし、強いんだね!! 自称大陸最強の英雄とかいう、怪しい奴のことも圧倒してるし!!!」

「お世辞はありがたいが、今はやめてくれ」

「ほんとのことだもん!!」

「アイラ、今は黙っていろ」

ゼルドが、顔を歪めた。

「……貴様、この僕の前で女とイチャイチャして、見せつけているつもりか!?」

「これが、いわゆるNTR、BSSってやつか」

「というか貴様.......本当に死神紋章を制御しているのか.......?」

「できているからお前も無事でいられているんだ。感謝されてもいいくらいじゃないか」

「嘘をつくな! 記録では——」

「記録が間違ってるんじゃないのか」

「何を根拠に——」

ゼルドが言葉に詰まったその時だった。

---

空が鳴り、轟音が学園全体を揺らした。廊下の窓が、一斉に内側へ吹き込む。

全員が反射的に頭を下げた。

窓の外——学園の上空に、“それ”がいた。

翼幅が十メートルを超える、漆黒の鳥。

羽の一枚一枚が刀のように鋭く、嘴が馬の頭ほどの大きさがある。目が、爛々と赤く光っていた。

[魔鳥]——大陸でも目撃例が数えるほどしかない、上位の魔物だ。単独で騎士団を壊滅させたという記録も残っている。

それが、学園の上空を低く旋回していた。

「——魔鳥だ!!!」

誰かが叫んだ。

廊下が悲鳴で溢れ、生徒たちが一斉に逃げ始める。窓から顔を出した魔鳥の嘴が、廊下に突っ込んできた。

次の瞬間......

ゼルドの体が、宙に浮いた。

「——ッ!? 離せ!! 離せというんだ!!!」

魔鳥の嘴が、ゼルドを掴んでいた。

英雄が、ばたばたと手足を振り回した。腰の剣を抜いて、魔鳥の嘴に叩きつけた。

「〈光刃・連射〉!!」

光の刃が三本、魔鳥の首に直撃した。

ただ、魔鳥は止まらなかった。羽毛が数枚舞っただけで、そのまま上昇を続ける。

「助けろ——!! 誰か助けろ——!!!」

高度が上がっていく。

十メートル、二十メートル、三十メートル——。

廊下に残った生徒たちが、窓から空を見上げて固まっている。セレフィーナが術式を展開しようとした。その瞬間......

「全員落ち着け、別に魔鳥くらいどうってことはないだろ。何でそんな焦ってるんだ?」

俺が前に出ながら、率直な疑問を口にした。

「レイン——」

「魔鳥くらいってお前.......あいつは国でも上位の魔術師たちが、数人がかかりでやっと討伐できるかどうかなんだぞ! そんな高校生一人が同行できるわけが......」

「ふーん、案外国の魔術師も大したことないのかな? まあいいや、とりあえず距離がありすぎる。術式を使うと、ゼルドも巻き込む可能性がある」

「じゃあ、どうする気なんですか......?」

「人間が、空を飛べないと誰が決めた。俺はその根本をぶち壊すぞ! ちょっと行ってくる!」

「行くって——どこに」

俺はすでに窓枠に足をかけていた。

「ちょっ、レイン!! 三十メートルあるよ!?」アイラが叫んだ。

「わかってるって!」

「落ちたら死ぬよ!?」

「落ちることなんてないって! たぶん、きっと、そうに違いない!」

「たぶん!?!?」

俺は窓の外に出た。

外壁の石の出っ張りを踏んで、上へ上がる。一段、二段、三段——屋根の縁まで出た。

風が強かった。

上空で魔鳥が旋回している。ゼルドを咥えたまま、じわじわと高度を上げていた。

俺は魔鳥を見た。

ーーーー感じる

翼の動き、重心の位置、魔力の流れ——全部、見えた。

この魔鳥は、学園の地脈の乱れに引き寄せられてきた。腹が減っているわけじゃない。ただ、乱れた魔力の匂いを追ってきただけだ。

「——〈朱雀門・開門〉」