作品タイトル不明
第12話「空気が読めない......あ、昔のトラウマが」
「今日、何か感じませんか?」
朝、俺が一人でぼーっとしていると、セレフィーナが突如、そんな変なことを言い出した。
「感じる........ってのは?」
「なんかこう、学園全体として。おかしいところがないか、という意味です!わかってください!」
そんな抽象的な表現でわかって!と言われても困るな、とは思いつつ、俺は足元に意識を向けた。
土の感触。水の流れ。その奥の、もっとゆっくりした何か——。
「….北の方に、変なものがある......気がする?」
「変な、というのは?」
「なんか魔力の流れが渦を巻いてて——あ、でもかなり珍しい面白い形してるな、これ!入り口は広いのに、奥に行くほど出口がなくなってく感じで。魚を捕まえる簀の子みたいな.......」
「…………」
「.......セレフィーナ?」
「今、面白いとおっしゃいましたか?」
「昔から俺は、この紋章のおかげかわからないが、魔力で構成されているものや魔術の構造をほぼ完璧に捉えることができるんだ」
「.......は!? 今この人サラッととんでもないこと言ってませんでした!?」
「お前が何を言いたいのかはよくわからないが、この構造は初めて見てな、実に興味深いな、と」
「面白がっている場合ではないですよ!」彼女の声が真剣になった。「北棟の旧演習場です。封印術式が劣化している危険な場所で、学園長が絶対に近づくなと言っています!」
「じゃあ近づかなければいいだけだよな? お前は何をそんなに心配してるんだ」
「あなたはわかってないですねー、こういう時には必ず近づく人間が出るんです!」
「なんでそんな、自ら罠にかかりにいくような真似を.......」
「男子というのは、危険と言われると行きたくなる生き物なのですよ!」
「……俺は行きたくないが」
「あなたは例外なんです!」
「一応言っとくと俺はしっかり男だからな!」
「流石にわかってますよ!馬鹿にしないでください!まあ、なんというか......面白いと言って分析を始めるタイプなので、また別の危険がありますね」
「……失礼じゃない!?」
「事実ですので」
朝から論破された。
女子に論破される事を虚しいことはないな、今日もいい天気だ!
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昼休みに食堂で至福の時間を過ごしていると......
エリクがいきなり隣に座ってきて、「クロノス・アルベルトを知ってるか?」と聞いてきた。
「そんないかにもイケメンで強いですよ!みたいな奴は知らないな」
「なんだそれ! まあ置いといて、こいつは学園男子の文武総合一位だ。剣術も魔術も首席、生徒会副会長、顔もいい。完璧な男として三年間通ってる!」
「やっぱりあっち側に立ってる奴だったか」
「そいつが今朝、有志を集めて北棟を調査すると宣言した」
「……あれ? そこって学園長が危険だから立ち入り禁止しているんじゃなかったけ?」
「危ないから調査するって言って聞かないんだ」
「なんか本末転倒な気もするが......」
「俺もそう思う」エリクは声を落とした。「それはまだいい!いやよくはないか、だが問題はな、そいつがセレフィーナ殿下を連れていきたいと言ってるらしいんだよ!」
「……それは困るな、これ以上面倒事を増やされるのは御免だぞ」
「お前もわかってるとは思うが.....お前のところに来るぞ絶対!」
「皆までいうな、俺が一番わかってる。ついでに、俺が一番絶望してる」
「まあ、お前ならいける!俺もセレフィーナさんがお前の元から離れるのは寂しいものがあるからな、頑張れよ!」
俺は人任せだなー、とは思いつつも食事という名の至福の時間を再開した。
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午後の講義が終わった廊下に、人の壁が出現した。
光輝く金髪を整え、制服に一分の隙も見せず、顔立ちも整っている。立ち姿から自信が滲み出ていて、「これが学園男子一位か」と一目でわかる佇まいだった。
後ろに六人。全員体格がいい。
なぜかアイラが廊下の反対側から走ってきて「なんか強そうな奴がいる!! 私も混ぜろ!!」と叫んでいたが、エリクが全力で首根っこを掴んで止めた。
「レイン・ノクスだな」
「うちの姫さんを貸して欲しいって話だろ」
「名はクロノス・アルベルト。話が早くて助かる。単刀直入に言おう、北棟の調査にセレフィーナ殿下の力を借りたい」
「学園長の許可は?」
「申請中だ。だが封印の劣化は昨夜から加速している。昨夜から北棟の窓に光が漏れ始めた。待っていられない」
(それをわかっているのか........セレフィーナでもわかっていなかったことを見るに、実際かなりの実力を有しているといったところか)
俺がそんなことを一人で考えていると、セレフィーナが一歩前に出た。
「具体的に中で何をするおつもりですか?」
「術式の解析と補修。最悪は封印を解いて張り直す予定だ」
「あ——それはやめた方がいいと思うぞ」俺は口を挟んだ。
クロノスの目が初めて俺に向いた。顔と、腕の紋章を、順番に確認するような目をして、
「なぜだ」
「封印術式を途中で解くのは、罠を半分だけ解除するようなものだ。完全に解ければいいですが、途中で詰まった時が一番危ない。特に今朝感じた構造だと——」
「今朝感じた?」クロノスの眉が動いた。「お前、北棟の内部構造を感知したのか」
「まあ、ちょっと......?」
「….....腕にあるその紋章で?」
「何か問題でもあったか?」
「俺は死神の紋章を初めて見たんだが、感知もできるのか......?」
「あそうなのか、まあ俺も俺以外の死神紋章持ちにあったことないしな.......まあできるな、“まともに扱えれば”の話だがな」
「そんなの聞いたことがないぞ!?」
「俺よりも前の死神紋章持ちって全員早死にしてますもんねー、」
クロノスがわずかに押し黙る。何かを考えている顔だった。でも次の瞬間、その目が俺の全体を、上から下まで一度なぞる。
「……お前のことは聞いている。地脈の修復も、魔力炉の安定化も、川の治水も——やったのはお前だと」
「まあ、そうだな」
「才能があるのはわかった」クロノスは続けた。「だが——」
ここで彼は、俺の隣のセレフィーナに目を向けた。
「男のくせに、強い女の後ろに隠れて守ってもらっているのは——情けないとは思わないのか」
廊下の空気が、ぴたりと止まった。セレフィーナの目が、すーっと冷えていくのを感じる。
温度が下がる音が聞こえた気がした。
「アルベルト、その言葉は——」
「まあまあ」
俺が前に出た。
「何がまあまあなんですか! あなたは、私どころかこの人の何倍も強いのに!」
「それは買いかぶりすよ、事実は事実なので」
「事実では——」
「俺、本当に戦いは苦手だよ。セレフィーナの方が圧倒的に強い。否定できないことだ」
「レイン!! なんで自分でそれを言うんですか!!」
「嘘をつく理由もないので」
「そこは空気を読んで嘘をついてください!!」
「空気が読めないのは昔からだからな.......あ、昔のトラウマが........」
「何勝手に昔のトラウマでやられているんですか! あなたが空気を読めないのは知ってますが今は読んでください!!」
後ろでエリクが「セレフィーナさんが珍しくテンパってる」と呟いた。アイラが首根っこを掴まれたまま「あの金髪、なんか気に食わない!! 私が相手してやる!!」と暴れていた。
クロノスが、その光景を少し眺めて.......
そして——ため息をついた。
「……お前、本当に変な奴だな」