軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話「戦闘するほど仲がいい!」

ーーー翌日

なぜかその話が学園中に広まっていて、放課後の演習場に生徒が溢れていた。

「お前さ」エリクが俺の隣で言った。「どうしてこういうことになるんだ、毎回」

「俺も知りたいところだな」

「馬を止めただけだろ」

「余計なことはしてないはずだ」

「それで転入初日の王女に求婚されて......」

「今思えばそれが始まりだったのかもな」

「なぜかもう一回求婚されて.......」

「ループしてるかと思ったわ」

「はたまたその二人が決闘とか言い出して」

「一番意味がわからん」

「お前の人生、密度がおかしすぎやしないか?」

「俺が一番思っていることだ」

演習場の中央、二人が向かい合った。

セレフィーナはいつもの制服姿。武器は持っていない。

アイラは木剣を腰から抜いていた。ぱっと見は演習用の木剣だが、持ち方が違う。腰の落とし方、足の間隔、剣先の角度——全部が「本物」だった。

「ルール確認するよ」アイラが語り口調で説明し出す。「どっちかが参ったか動けなくなったら終わり。殺傷禁止。それ以外は自由でいい?」

「構いません」

「じゃあ——行くよ!」

空気が変わった。

昨日まで「弁当美味しかったね!」と笑っていたアイラが、一瞬で別人になった。

表情が消え、目だけが凍死に満ち溢れて、燃えているようにすらみえる。

---

アイラが動いた。

「.......ッ!?なんて速度だ!目で追えない!」

「いや普通に見えるだろ、目を凝らせ」

「お前......本気で言ってんのか?」

「当たり前だろ。ただ、お前がおかしなことを言ったから、疑問を口にしただけだ」

まあだが、思っていたよりは、ずっと速かった。

地面を蹴る音が一つだけ鳴って——次の瞬間、もうセレフィーナの目の前にいた。木剣が肩口から鋭く振り下ろされる。

「——〈風障壁・初陣〉」

セレフィーナが右手を小さく翻した。

透明な魔力の壁が展開されて、木剣の軌道を横へ弾いた。流石の魔力量だ。学園の最新鋭の設備でさえ測定しきれないほどの莫大な魔力が彼女の中には眠っている。

普通の剣士なら、そこで止まる。

ただーーーアイラも普通ではないのだ

弾かれた勢いを殺さず、そのまま回転して——今度は肩で魔力壁ごとセレフィーナを押した。

「——っ」

セレフィーナがわずかによろけ、観客席からどよめきが上がった。

「今、魔力壁に肩から突っ込んだぞあの子」

「ああ……見てた」

「普通そんなことしないだろ」

「しないな、“普通”は」

「まるで、彼女からしたらそれが普通だとでも言いたそうな言い方だな」

「俺の予想が正しければーーいやほぼ確実に、あいつはこれを“普通”にやってのけるやつだ」

演習場の中央では、セレフィーナが体勢を立て直していた。

その目が、少し変わっている。

「……魔術を介さない戦い方なのですね」

「魔術、苦手なんだよね」アイラは剣を構え直した。

「でも苦手なもんに頼らなくてもここまで来た。あなたの魔術が強いのは知ってる。だから——使う前に終わらせる」

「なるほど、随分とお古い思想をお持ちなようで」セレフィーナの口元が、わずかに動いた。

「では、使わせないようにさせてみてください」

「言ったね?」

「言いました」

「——〈双嵐突き〉!」

アイラが低く踏み込んだ。

右、左、右——三連の突きが嵐のように打ち込まれる。速さが尋常でない。一撃ごとに踏み込みが半歩ずつ深くなっていて、最後の一撃は完全にセレフィーナの懐まで潜り込んでいた。

「〈六翼防陣・第一層〉」

六枚の光の盾が展開された。

アイラの剣が、一枚目を打ち砕く。

「〈第二層〉」

二枚目が現れた瞬間、アイラは剣を引いていた。突きではなく、横薙ぎ。軌道が全く読めない。

二枚目も簡単に砕ける。

俺はその激戦を側から見ていて少し感じたことがある。あいつらって......ちゃんと強かったんだな、

「〈第三層展開・連鎖固定〉」

今度は一枚ずつではなく、残り四枚が同時に展開された。セレフィーナを中心に、あらゆる方向からの攻撃を同時に受ける完全防御の形。

アイラが止まる。

「……へえ」

一瞬だけ笑い、次の瞬間にはもう

ーーー見えなくなっていた

「面白いじゃん!」

「.....っ!? それはありがたいお言葉ですね」

「——〈嵐脚・轟〉!!」

アイラが跳ぶ。

剣ではなく、蹴りだった。

四枚の盾に対して、両足を使って順番に蹴り抜いていく。一枚目——二枚目——三枚目——盾は魔術で構成されてはいるものの、物理衝撃にも限界がある。四枚目が砕けた瞬間、アイラの体がセレフィーナの真横に着地した。

「——〈閃光突き〉!」

木剣の柄が、セレフィーナの肩口を打った。

乾いた音がし、コンマ数秒たった後、セレフィーナが横へ吹っ飛んだ。

沈黙。

演習場全体が、息を呑んでいた。

---

「……一本、もらったね!」

アイラが木剣を肩に担いで、にっと笑った。セレフィーナが片膝をついたまま、少し間を置く。

「……そうですね」

ゆっくりと立ち上がった。肩を軽く押さえていた。

「認めます。一本」

「でしょ?」

「ただ——」

セレフィーナの目が、変わった。

穏やかな色が、消える。

今まで見たことのない顔だった。笑ってもいない。ただ、まっすぐに——静かに、燃えている顔だった。

「少し油断していたようです、次からは、今のようにそう簡単にはいきませんよ」

「来なよ!本気、楽しみにしてた!」

---

第二ラウンドが始まった瞬間、大気が震え、周りの生命がその畏怖に対して、共鳴しているように感じられるーーーー次元が違った。

「——〈天翼展開・双龍陣〉」

セレフィーナの詠唱と同時に、演習場の空気が揺れた。

彼女の周囲に光の翼が展開された。二対四枚——いや、見る間に六枚、八枚と増えていく。それぞれの翼が独立して動いていて、攻撃にも防御にも瞬時に変形できる。

「……それ、今まで使ってなかったやつじゃん」

アイラが目を細めた。

「一本目は、様子を見ていました。あなたが想定より強かったので、私も少し本気を見せようかと」

「正直でいいね」

「嘘をつく必要がもないので!」

「——じゃあ私も本気出す! 〈嵐王の構え〉!」

アイラの足が大きく開き、重心が落ちた。木剣の先が、地面と水平になる。

「クレイン家に伝わる最強の型だよ。これ使ったら止まれないから、最後まで決着つけようね!」

「望むところです!」

「——〈百連嵐撃〉ッ!!!」

アイラが地面を爆発的に蹴る。

速さが、一本目とは桁が違った。残像すら目に見えない。ーーーこの俺を除いてな!

セレフィーナは動かない。

「〈天翼・収束〉」

八枚の翼が、一点に集まる。

正面に、光の壁が出現した。アイラの突進を正面から受け止める形。

「——〈双嵐突き・烈〉!」

アイラの木剣が光の壁に叩き込まれ、ひびが入った。

「〈嵐脚・轟——改〉!!」

蹴りが加わった。両足、交互に、光の壁がひびだらけになっていく。

「〈天翼・再展開〉」

壁が砕ける寸前にセレフィーナが詠唱した。砕けた壁の破片が、そのまま光の矢に変わっていく。

その瞬間ーーー俺たちはとても幻想的な景色を見ることとなる。それはまるで、無数の星々が輝く、銀河の如く......

百を超える光の矢がアイラに向かって降り注ぐ。

「ッ——!」

アイラが最小限の動きでそれらを払いのけている。十本、二十本、五十本——しかし、それは次第に終わりを迎える。

払いきれない!そう感じた時にはすでに光の矢が肩に、腕に、脚に当たっていく。

それでも、止まらなかった。

光の矢を全身で受けながら、前へ進む。

「〈嵐王・最後の一撃〉——!!」

残った全部の力を、一撃に込めた。木剣が、セレフィーナめがけて振り下ろされる。

「——〈天翼・最終収束・龍の盾〉」

セレフィーナが、両手を前に突き出す。八枚全部の翼が、目の前に集まった。アイラの一撃が、その盾に叩き込まれる。

演習場全体が揺れ、地面にひびが入る。風圧で、観客席の最前列の生徒が吹き飛んだ。

エリクは俺の肩を掴んで踏ん張っていたが、俺は特に何もしなかった。

「お前ら、なんか楽しそうだな!」

「ハイパー鈍感男か!」

光と衝撃が収まり、砂埃が晴れていく。

中央に、二人が立っていた。

アイラは右膝が地面につきながらも、木剣を支えにしながらなんとか上体を保っている。全身から熱気が立ち上るかの如く湯気が出ていた。

セレフィーナは初めてあった時のように、そこに立っていた。

ただ——目を閉じている。額から一筋、汗が流れ、両手がかすかに震えている。

そんな最中、アイラの一言がこの会場を支配する

「——参った」