作品タイトル不明
第170話 脱出へ
「ニーナ、すまないが、すぐにでも馬車を用意してくれるか?」
ニーナに頼む。
「本当にそのルートで行くんですか?」
「ああ。他にない。それに何より、考えている時間もないと思っていい。俺達は怪しい人間なんだぞ」
5人が5人共、外国人である。
もちろん、犯人ではないから捕まることはないが、長い取り調べが待っている。
それは非常にマズい。
「わ、わかりました」
「なるべく急いでくれ。同じことを考える商人は多いだろうし、馬車の確保が困難になるかもしれない。それに加えて、そちらのルートも厳しくなる可能性がある」
町の封鎖も十分に考えられるのだ。
「それもそうですね。では、フェルナンさんを頼ってみます。力になってくれるかもしれません」
金貨やインゴットを売ったら紹介状まで書いてくれたくらいだしな。
「良いと思う」
「では、今から行ってきます」
「俺も行こう」
ニーナとカルロは立ち上がると、すぐに部屋から出ていく。
「レスター、エルシィ、私も一度部屋に戻り、いつでも出られるように荷物をまとめてくる」
「わかりました。どちらにせよ、今日の出発はないのでこちらに宿を変えてください。俺達の連れと言えばギルド割引が利きます」
「わかった。そうさせてもらう」
ミュリエル先輩は頷くと、立ち上がり、部屋から出ていった。
「ふう……」
「とんでもないことになりましたね……」
ホントにな。
「レスターさん、イパニーアがテロを起こしたって本当なんでしょうか?」
ウェンディが聞いてくる。
「俺はそう思う。それくらいにこれまでのことはイパニーアにしかメリットがないことなんだ」
「ゲイツという線は?」
「ゲイツにはデメリットしかない。ゲイツが一番望むのはランスやイラドが南征し、そこで苦戦することなんだ。その隙に事を進められるからな」
ここでこんなことが起きたらランスの軍はどうしてもゲイツを警戒する。
もっとも、それはゲイツもだし、こうなって得するのは南のイパニーアなんだ。
「イパニーアが……あんなに平和そうだったのに内乱が起き、さらには外国でテロですか」
「平和だからこそだろう。内乱はまだ自国内のごたごただが、これに外国が介入してきたらイパニーアは終わる。それだけは許されないんだ」
特にイパニーアは外国から侵略されたことがない国だから嫌がるだろう。
「そうですか……人間は難しいです」
「安心しろ。ほとんどの人間がそう思っている。それよりも列車旅から一転して、馬車の旅になりそうだ。悪いが、これまでのような快適旅じゃない」
「私は大丈夫ですが……エルシィさんは大丈夫です?」
それもそうだな。
「私は大丈夫だよー。田舎生まれだから馬車には慣れてるもん」
大丈夫じゃないのは俺だったりして……
「そうか……なら安心だな」
俺はちょっと不安になりながらも3人が戻ってくるのを待つ。
すると、1時間後にミュリエル先輩が戻ってきて、さらに1時間後にカルロとニーナが戻ってきた。
「レスター先輩、フェルナンさんから馬車を借りることになりました」
部屋に入ってきたニーナが報告してくる。
「フェルナンさんが? それに借りるっていうのは?」
俺達が行くのはゲイツだぞ。
借りるって言ったって、帰りはどうするんだ?
「それについて、話がしたいのでこれから会えないかとのことです。どうしますか?」
「会おう」
それしかない。
「わかりました」
「では、皆で行きましょう」
俺達は全員で部屋を出ると、1階に降りる。
すると、受付のおばさんと目が合った。
「これからお出かけかい?」
「ああ。俺達は明日、北の駅から列車でゲイツのトールハイルに向かうところだったんだ。それがこんなことになってな……」
「爆発が起きたんだってね……とんでもないことだよ」
おばさんが首を横に振る。
「ホントにな……」
「それであんたらは急いでるわけかい?」
「ああ」
「それは仕方がないね。夕食は何時でもいいから急ぎな。他の連中も慌ただしく動いているよ」
やはりか。
「ありがとう。そうさせてもらう」
俺達は宿屋を出ると、フェルナンの店に向かう。
辺りはすっかり暗くなっているが、通りには人が多い。
賑やかではあるが、兵士もおり、どことなく、落ち着かない雰囲気だ。
「夜の町の雰囲気が昨日までとかなり違うな……」
ミュリエル先輩がつぶやく。
「やっぱりですか?」
「ああ。普段なら酔っ払いの冒険者が歩いたり、騒いだりしているが、その雰囲気がない。それに何より、人々に笑顔がないな」
確かに笑っている人はいない。
皆、神妙な顔をしているし、どこか不安そうだった。
そんな中には早足で歩く商人のような者もいる。
「商人は思ったより、早く動くかもしれませんね」
「そうかもな……ニーナ、その辺はどうだ?」
ミュリエル先輩がニーナに聞く。
「早いと思います。約束の期日までに納品する契約もありますし、日が持たない商品もありますから1日遅れるだけで損害が出ます。それに何より、私のように買い付けに来ている商人は足止めされるのを嫌がります。長い時間、自分の店を空けるわけにはいかないですからね」
なるほどな。
「そうか。となると、伝手があった私達は運が良いな」
運が良いのか、悪いのか……
何とも言えないな。
俺達はそのまま歩いていき、フェルナンの店に到着した。