軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

テンプレートな異母妹に遭遇した

しばらく三人で話を続けていると、ダンスの曲が流れ出した。

会場の真ん中で、主催の公爵夫婦と来賓の第二王子殿下夫妻が踊り出す。

「……連れ出したんだな」

レイモンド様の呟きに、私もルシウス様も頷くことで同意した。

「レイモンド様とエリーゼ様はよろしいんですの?」

本日の主役の一人が目の前でソファーに座ってる。

そこは一緒に踊るところでは?

レイモンド様は苦笑する。

「俺もエリーゼも、関係を深めることに必死でダンスまで手が回らなかった。辺境の地に伝わる民衆の踊りなら出来るんだが、夜会で披露するのはさすがにな」

民衆の踊り……どんなだろ?

ルシウス様を見るが、ふるふると首を振ってた。

知らないらしい。

「ルシウスたちは良いのか?」

「どうします?ルシウス様」

「次の曲になったら行こうか?」

「ならば俺はエリーゼとともに見学するかな。憧れはある、と言ってたから」

レイモンド様がエリーゼ様と合流するので、三人揃って迎えに行くことにした。

が。

「席を外した?」

「えぇ、ローザリア様方がダンスに向かわれた時に、少し涼んでくると仰って。庭園へ向かわれましたわ」

輪の中の一人の夫人に確認すると、庭園の方を示された。

一人で向かったとあって、レイモンド様は渋面だ。

「夜会に慣れてらっしゃらないから、少しだけなら一人でも大丈夫、と思われたのかもしれませんわ」

「案内しますよレイモンド。他家の通路は不慣れでしょう?」

「あぁ、頼む。屋敷には滞在してたが、庭園は方角しかわからん」

「わたくしも行きます。お花摘みに行かれてたら、女性がいた方がよろしいでしょう?」

「ありがとう、ミュリエル夫人」

ということで、三人で庭園へと向かった。

少しだけ、とエリーゼ様は思ったのかもだが、お義姉様の公爵家はやたらと広い。

アイゼンバーグ家も相当な広さだが、こちらはより歴史が古く部屋数が多いそうだ。

そんなことを歩きながら義弟のルシウス様が説明してくれる。

レイモンド様の観点は、家に押し入られた場合の防犯だった。職業病?

すれ違う使用人たちにエリーゼ様を見掛けたか尋ねると、何人か見たと答えた。

迷ってる風でもないので、礼のまま見送ったらしい。

「エリーゼ様は庭園をご存知なのかしら?」

「ローザリア様とお茶会をした、と言っていた。植えてある花の種類まで知ってた」

なら迷わないか。何事もなければ、道の途中か庭園で会えるだろう。

そう思っていたら、道の曲がり角の先が何やら騒がしい。

「……?」

聞こえる声はかすかに女性の声、しかも興奮してるようだった。

三人で顔を見合わせ、口を噤んでそっと角の向こうを覗き見る。

道の先、女性が二人向き合っていた。

一人は後ろ姿だが、エリーゼ様だとわかる。

もう一人はこちらを向いているが、知らない顔だった。

「……?」

「……」

「……」

手振りで『知ってる?』と二人に聞くも、『知らない』との返し。

うーん、何か話してるみたいだけど、もうちょっと近付かないと聞こえないかも……。

そう思ってると、ルシウス様がレイモンド様を見て廊下の置物を示した。

レイモンド様が頷き、足音を立てずに置物の影に隠れる。

距離が近づいたことで、話してる内容が聞き取れたらしい。

険しい顔をするもこちらに頷いてみせ、口の動きだけで誰かを教えてくれる。

「妹」

あるあるだーーー!

テンションが上がってしまい、ルシウス様の腕を叩いてしまう。

情けない顔をされた。ごめんなさい。

「……レイモンド様の妹、ではないですよね?」

「……レイモンドには兄弟がいない」

「……じゃあやっぱり、エリーゼ様の妹……!」

推定エリーゼ様の異母妹は、仁王立ちをして甲高い声でエリーゼ様に何か言ってる。

私達には聞き取れないけど、レイモンド様は眉間に皺を寄せてるから理解してるのだろう。

騒ぎが聞こえてきたらしく、背後から使用人がやってきた。

血縁であるルシウス様がその場で待機を命じてると、一際大きな声で異母妹らしき女性が叫んだ。

「お姉様ごときが辺境伯夫人になるなんて、生意気なのよ!身の程知らずだわ!」

あぁ、言っちゃった。

私もルシウス様も使用人も、げんなりとした顔になる。

レイモンド様もこれ以上黙ってられなかったらしい。

置物の影から出てエリーゼ様に声を掛けてる。

一転して声量が小さくなり、話をしてる姿だけを眺めながらルシウス様に話し掛けた。

「……こういうセリフって、お話にもよくあるんですよね」

「僕が読んだ本の中にもあった。ミューも言われたよね?」

「前回の夜会ですね。あれも思うところがあってやり返した訳ですが、今回はまた別の思いが巡ります」

「別の思い?」

「本当に人目のない死角を作るなんて、公爵家が油断するとでも?」

「あぁ……」

「わざわざここで始めるのは、人目につきたくないからだとは思うんですが。他所様のおうちで誰にも見られず事を起こすなんて、出来っこないですよね?」

「そうだね……アイゼンバーグ家で夜会を開いたとして、他人が入り込むのに隙とか怖くて作れないな」

「そしてあの言い掛かり、後でレイモンド様やお義姉様に告げ口されるとは思わないものなのでしょうか?」

「まずは使用人から報告が上がるけどね」

「エリーゼ様が口を噤んだまま従うと、本気で思ってるんでしょうか……」

「思ってるんじゃないかな、たぶん」

「公爵家の後ろ盾で辺境伯夫人として紹介されたエリーゼ様が、子爵家の妹の叱責ごときで婚姻を撤回すると」

「たぶん……」

「脳内お花畑ですね」

「フワフワしてるね」

明らかに公爵夫人のお気に入り、望まれた妻として紹介されたエリーゼ様を怒鳴りつけて。

その後、辺境伯家や公爵家から何もされないと思ってるあたり考えが足りな過ぎる。

見たところ、私よりも年上っぽいんだけどなぁ……。

ルシウス様と二人で呆れていると、レイモンド様が視線を寄越した。

ルシウス様が背後の使用人へ合図を出し、令嬢を拘束しに行く。

わめく異母妹を後にし、エリーゼ様とレイモンド様が連れ立って戻ってきた。

「ミュリエル様」

「エリーゼ様、ご無事?お怪我はない?」

「えぇ、オーレリア……妹に少し引っ張られたくらいで。転びたくないからついていっただけなので、怪我はありません」

エリーゼ様に声を掛けると、思いの外平常心ぽいのでひとまず安心した。

私たちの隣では、レイモンド様がルシウス様と増えた使用人に異母妹の報告をしている。

「知り合いの伯爵令息に頼み込み、彼の妹として入場したらしい。令息はまだ会場内だ」

「承知しました。主人に報告いたします」

「ネフィカ子爵令嬢はどうする?」

「夜会終了後に主人の裁定を仰ぎますので、それまでは客室にて待機いただきます」

客室か。待機って表現の拘束だけど、地下牢じゃないだけまだマシね。

夫たちの会話を聞いてると、エリーゼ様がシュンとした。

「申し訳ございません。私の妹が、このような騒ぎを……」

罪悪感のようだけど、お門違いだ。

レイモンド様が慰めようとしたが、手で制した。

「エリーゼ様。エリーゼ様は、どちらのご出身なの?」

「え……それは、ネフィカ子爵家で……」

「違うわ」

「え」

「縁を切って養子に入って、今はレイモンド様の奥様よ。責任を感じるなら辺境伯家に、遡っても養子先の侯爵家がエリーゼ様の責任範囲だわ。縁を切った子爵家の人間は関係ないの」

ばっさりキッパリ言い切ってやる。

エリーゼ様はポカンとしてた。

同じくレイモンド様も呆気に取られてたけど、目線を向けると慌てて同意した。

「そ、そうだエリーゼ。ミュリエル夫人の言うとおり、あの者はもはや君になんの関係もない他人だ。他人が騒ぎを起こしたところで、君には責任なんて全くない。こんなことで顔を曇らせなくていいんだ、笑ってくれ」

「レイモンド様……」

寡黙、との前評判だったけど。

伝えるべきことは伝えられる、さすが辺境伯閣下。

エリーゼ様のキラキラした目に満足して、隣のルシウス様を引っ張った。

「使用人はいるけど、『ほぼ二人きり』にしてあげましょ」

「そうだね、『ほぼ』二人きりで。程々に帰ってきてね、レイモンド」

寄り添った二人に声を掛け、私達も寄り添いながら来た道を戻る。

「ダンス、踊る?」

「んー、どうしましょう。曲次第ですけど、今はあまり大きく動きたい気分じゃないです」

「じゃあ、スローテンポなら参加するってことで」

ふふ、と笑い合って会場に向かった。

……テンプレートな出自の令嬢には、テンプレートな異母妹がいるものなのね。

そう考えてはいたが、まさかまだテンプレートな人間関係があるとは思いもよらなかった。