軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

テンプレートな出自の妻と、辺境伯閣下と話した

ルシウス様の機嫌が直ったところで、ここからは男女に分かれて社交です。

前回は夫婦初のお披露目だったのでニコイチで動いてたけど、必要な社交がそれぞれにあるんだから仕方ない。

「だから納得してください、ルシウス様」

「……納得はしてる」

「なら離れられるでしょう」

「離れたくない……」

一度こちらから抱きついてしまったら、そのまま離れなくなった。

注目集めてるじゃん。

「ユーリ様が一緒に行ってくださるんですって。光栄じゃないですか」

「……ミューがいい……」

「女性の社交に交じるんですか?お義姉様に睨まれますよ」

「……」

忠告したら渋々離れた。

やはり困った時のお義姉様!

「頑張ってくださいね。どうしても無理ってなったら迎えに行きますから」

そう約束し、指切りまでしてルシウス様を送り出す。

「普通、逆じゃない?」

呆れ顔のマリーに言われたけど、普通じゃない王子妃が何を、と思い相手にしない。

社交一番目は主催のお義姉様と主役のエリーゼ様。

二人で赴き、カーテシーをする。

ローズ様は扇で口元を隠してたが、目はニンマリとしてた。

「熱いわねミュー。あのルシウスがベッタリしてる、ってこちらでも注目してたわよ?」

まぁそうでしょうね。夜会中にベッタリする夫婦自体なかなかいないだろう。

持ち前の貴族スマイルで受け流す。

「旦那様は少しナーバスになってましたの。ご機嫌が直って良かったですわ」

「ナーバス?」

「ミュリエルのドレスの色がご自分の色じゃない、と嘆いてらしたわ」

「え?」

マリーの告げ口に反応したのはエリーゼ様だった。

「あ、第二王子妃殿下に失礼を!」

「お気になさらず、辺境伯夫人。突っ込みたくなる気持ちはよくわかります」

「きょ、恐縮です」

鷹揚に言ってるけど、別にエリーゼ様は突っ込んだ訳じゃないでしょうよ。

チラ、と視線を向けると『何か?』と返された。

私達のやり取りには気付かず、エリーゼ様は少しだけはにかんだ。

「アイゼンバーグ小公爵と奥様は、とても仲がよろしいんですね」

「えぇまあ。それよりも辺境伯夫人、どうぞミュリエルとお呼びくださいませ。アイゼンバーグ小公爵夫人、は長くてクドいです」

「えぇ?」

「クドいは余計よミュー。でもそうね、わたくしのこともマリアベルと呼んでくださる?殿下は堅苦しいわ」

「文句を付けながら便乗するなんて、いい性格ねマリー」

「ミューに言われたくないわね」

いつも通りのやり取りをポカンと見てたエリーゼ様は、躊躇いつつローズ様を伺う。

ローズ様も頷かれたので、今度はしっかりと笑んだ。

「ありがとうございます。わたくしのこともエリーゼとお呼び下さい。ミュリエル様、マリアベル様」

「よろしくお願いします、エリーゼ様。親戚になりましたもの」

「わたくしはミューの従姉だから、親戚の親戚ね」

「光栄です」

そんな会話から話題を繋げ、やってきた他の婦人方も含めてなかなかに盛り上がった。

主にエリーゼ様の辺境ライフ、新婚生活から飛び火して私やマリーの結婚生活にも及ぶ。

「ルシウス様がこんなに愛妻家になるとは、全く予想も付きませんでしたわね」

「愚弟の手綱をミュリエルに任せられて、公爵家一同安堵してますのよ」

「わたくしはミューの手綱をルシウス様がしっかり握っていただけるよう、折に触れてお願いしてますわ」

「わたくしの心配よりあなたの旦那様のうっかりをどうにかしたら?マリー」

「ミュリエル、マリアベル様、それ以上はやめてね。こちらの身が震えるわ」

……飛び火が瞬く間に鎮火された。

初めは緊張気味だったエリーゼ様も、コントのような私達の会話にリラックス出来たようだ。

狙った訳じゃないが、まあいいか。

そこからまた別の会話を楽しんでると、給仕が声を掛けてきた。

「アイゼンバーグ小公爵様が、夫人をお呼びです」

本当に呼ばれた。

了承し、婦人の輪にいったん抜けることを伝える。

お義姉様とマリーは呆れ顔、他は乙女な喜びに満ちていた。

愛妻家、確定かな。

給仕の案内を受けて会場の真反対に向かうと、ソファーの一角にルシウス様とユーリ様、それに辺境伯閣下とお義兄様が座っていた。

私の姿を認め、ルシウス様が「ミュー!」と尻尾振って迎えに来る。

ユーリ様は妻と同じく呆れ顔、お義兄様は微笑ましいと笑い、辺境伯閣下は驚いていた。

「社交は終わりまして?ルシウス様」

「ひと通り終わったよ。後は会えたら挨拶すればいい」

「お疲れ様です。ユーリ様、ルシウス様のお守りをしていただきありがとうございました」

「お守りとは……、別にルシウスの社交に問題があった訳でもないぞ?」

「わたくしから離れて社交に赴くサポートが必要でしたので」

会話を聞いて、お義兄様はさらに笑う。

「相変わらず仲の良いことだ」

「ありがとうございます。お義兄様、素敵な夜会ですわ」

「ミュリエルに褒められたなら及第点だな」

「辺境伯閣下、改めてご結婚おめでとうございます。どうぞミュリエルとお呼びくださいな」

水を向けると、レイモンド様は驚きのまま頷いた。

「あ、あぁ、ありがとう。俺のこともレイモンドと呼んでくれ」

「光栄ですレイモンド様。そして何故そこまで驚いてらっしゃるの?」

ルシウス様と一緒にソファーに座ると、レイモンド様は余計に驚いたようだった。

いぶかしげな私達に、お義兄様が笑いながら教えてくれる。

「ミュリエルとルシウスの仲の良さに驚いてるんだろう。これまでの夜会で見掛けるルシウスは、とてもご婦人に寄り添う奴には見えなかったからな」

横を見ると、だいぶ至近距離に夫の整った顔があった。なるほど、寄り添ってる。

さっきは「ベッタリ」だったが、今度は「ピッタリ」だ。

「驚くほどなんですか?」

「驚くほどだな」

「私も前回の夜会で驚いた。ミューが妻をやってる姿も驚いたが」

「驚きだ……」

そんなにか。

当の旦那様はどこ吹く風、て感じだけど。

「……ルシウスとは親戚だが、住んでる場所も遠い上に年齢も離れていたからな。あまり話をしたことがなく、あっても仕事や領地の話だった。だが今日は八割妻の話だったので驚いてしまった」

しみじみと言われた。

八割妻の話って、それ社交か?

「……ルシウス様。社交をしてきたのではなかったの?」

「したよ?」

当然、という顔をされた。

ユーリ様に目を向ける。

深々と頷いてた。

「八割妻の話を絡めた、社交をしてた」

……第二王子殿下が認めるなら、社交だったんだろう。たぶん。

「新婚だからな。ルシウスも浮かれてるんだろう」

お義兄様がそう納得させてくれた。

レイモンド様のお顔はまだ半信半疑のようだけど、これが新婚ルシウス様だと割り切ってほしい。

「エリーゼ様も、八割とはいかないですけど、レイモンド様のお話をされてましたよ?」

矛先をレイモンド様に向ける。さらに驚き顔になった。

「エリーゼが、俺の話を?」

「ええ。本日の主役ですもの。女性たちで辺境新婚生活をお伺いしてましたわ。レイモンド様がどのように歩み寄りどのように求婚し、どのように式を挙げて今に至るか。詳細を聞き出しました」

断言してやった。

顔を真っ赤にして手で覆ってる。

うちの旦那様もよくやるポーズだ。

「明日には各家門に広まるな」

しみじみお義兄様が言ってるので、ついでに言っとこう。

「話のついでにお義兄様の新婚当時話も、お義姉様が語ってましたわ」

「なぬ?」

「あと、ユーリ様とマリーが新婚三日目にして盛大な初夫婦喧嘩をしたことも」

「んな?!」

「ルシウス様は愛妻家で通ることになりました」

「え?……まあそれはいいけど」

本当のことだしね、とルシウス様が頭にキスしてくる。高位貴族と王族の前だと言うのに。

お義兄様はそわそわし出し、ユーリ様は片手で顔を隠す。

「お義姉様とマリーは、まだ盛り上がってます」

「殿下、妻を引き離し……、いや迎えに行ってまいります」

「私も付き合うぞ、公爵」

すっくと二人して立ち上がり、私の来た方へ早足で向かって行った。

私達夫婦とレイモンド様が残る。

「レイモンド様はよろしいの?」

「いや……恥ずかしく思うが、エリーゼが楽しんでいるなら良い」

まだ顔は赤いが、ソファーに座り直しレイモンド様は私達を改めて見た。

「……君たちが幸せそうで良かった。ローザリアから紹介されてエリーゼを迎えたが、思い合うとはこのように素晴らしいことかと知ったんだ。同時に、縁をくれたルシウスにも感謝してる」

そう言って頭を下げた。

レイモンド様も、ルシウス様というワンクッションあっての縁だと思っていたみたい。

「頭を上げてください、レイモンド」

ルシウス様の穏やかな声が頭上からする。

「お互いに良い伴侶に出会えたのは、きっとそれぞれの運命だったのでしょう。引き寄せたのはレイモンドです。私も、何があっても最終的にはミュリエルと結婚したでしょうから。礼には及びません」

何があっても、とはこれまた強気な。

言いながら腰に回した手が力を込めてる。

意思表明、なのかな。

レイモンド様も嬉しそうに「そうか」と笑った。

全方位、丸く収まってなにより。

とは思っていたが、エリーゼ様がテンプレートな出自であることに変わりなく。

夜会あるあるの一種、『人気の無いところで糾弾される夫人(令嬢)』を、目の当たりにした。