軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第121話 心構え

考えてみれば、これが普通のJKの姿ではないだろうか、と綺羅星は思う。

中間試験を頑張りクラスメイトと共に文化祭に協力し、毎日ふつうに学校に通う。

最近ダンジョンに足を突っ込みすぎて、忘れていた日常。

ダンジョンで戦い学ぶのも楽しくはあるけれど、たまには、年頃の少女らしいことをするのも良いかもしれない。

(そもそも高校に通ってるなら、普通は学校のことが一番になるのよ。これが普通……!)

普通。私は普通、と頷きながら今日も普通に家を出て。

登校し、授業を受けて勉強して、お昼休みにいつも通り一人でご飯を食べて。

迎えた放課後――

綺羅星は集めたダンジョン関連資料を片手に図書室へと向かった。涼風さんとの打ち合わせのためだ。

ああ、いかにも普通のJKとして、普通のことをしてるなと綺羅星は感心しながら、

「…………」

ぴたりと足を止める。

……文化祭への協力はする。その言葉に嘘はない……けど、その前に。

改めて、涼風萌という少女について考える。

彼女の印象は決して悪くない。

クラスでは消極的な方だが、べつに悪い噂も聞かないし、どちらかといえばどんくさいタイプの子に入ると思う。

どこにでもいる普通の、まあ、可愛いかと言われるとそうでもない……控えめなJKだ。

そう。普通なら何も考えることはない……けど。

本当に、そうだろうか?

綺羅星はいままで散々、ヘンな”友達”に悩まされてきた。

友達を自称し搾取してくる、人の心を持たぬゴキブリ共。綺羅星にとって害にしかならない、無自覚な害虫共……そういう連中にずっと、蠅のように集られ血を吸われ続けていた。

もし……

涼風さんも、そういう連中と同類だったら?

表向きはいい子だけど、裏では姑息で卑劣、もしくは無自覚な悪だったら?

文化祭を理由に仕事を押しつけようとし、失敗したら私のせいにするような人だったら?

……綺羅星のよく知る、典型的な”友達”だったら?

「考えてみれば私、いつも、このパターンだったわ」

他人に頼られ、善意から引き受けてるうちに泥沼にハマる。

綺羅星に声をかけてきた“友達”はいつも、親切な顔をして近づいてきた。鎌瀬姉妹も。城ヶ崎も。その経験が自然と、涼風という無害そうな少女への警戒心となりざわざわと心をざわつかせる。

「…………」

綺羅星は廊下を歩きながら周囲を探る。何も知らない下級生が笑いながら廊下をすれ違う中、彼女はポケットから厚手の金属指輪を取り出し、ぱきぱきと分解する。

一つのリングを四つに分け、人差し指から小指へとはめていく。

連結可変式メリケンサック――普段はアクセサリにしか見えない、携帯式の武器だ。

もちろん学校はダンジョンでないため、綺羅星の身体能力は普通のJKと変わりない。それでも一般人相手なら有効だろう。

ちなみに凶器を隠し持つ行為は軽犯罪法、もしくは凶器準備集合罪で確実に警察沙汰であることは理解している。

手を出すつもりは、ない。

……けど、心構え。

実際に殴るのではなく、いざとなれば殴れる、殺せるぞという心構えが、綺羅星の心に安息をもたらす。

そもそも、クラスメイトと会う時に武装するのはJKの嗜みだ。ハンカチ、ナプキンと一緒にメリケンくらい持ってて当然だろう。

綺羅星は資料を左手に、凶器を右手のポケットに隠しながら図書室の前に立つ。

入口のガラス窓から内部を覗き見、不意打ちをされないよう警戒しつつ、ゆっくりとドアを横にスライドさせ獲物……じゃない、クラスメイトを探す。

ドア付近、クリア。問題無し。続いて敵影の確認を――

「わ、ひゃあああっ……!」

悲鳴。

来たか、と拳を構える――目の前で。

本棚の高い所から本を引き抜こうとし、不器用にもバラバラと取り落としている涼風の姿があった。

小太りな彼女があたふたと慌て、散らばった本を拾うのが見える。

それを再び本棚に仕舞おうとするが……脚立や足台を使えばいいのに、背伸びして戻そうとつま先立ちするものだから、本がはみ出したまま収まり大変危なっかしい。

……え。何この子。

……ふ、普通……しかも若干、ドジっ子気質……!

知らなかった。うちのクラスに、こんな子いたのか。

当の本人は、本を手に背伸びしてるせいで背後が隙だらけ。これならいつでも殺れそう……じゃない、JKとして心配よねと思った綺羅星は素早くメリケンサックを分解、証拠を隠滅したのち彼女を支える。

「大丈夫? あんまり無理しないでね」

「すみません綺羅星さん、助かります……!」

背中を向けたまま笑う涼風。ああもうダメよ、そんな姿勢じゃ。背後から脇腹にあっさりキドニーブロー打たれて悶絶しちゃうわよ?

と、彼女を心配しながら、片付けを手伝ったのだった。