作品タイトル不明
第120話 普通のJK
――最近の委員長、ちょっと雰囲気変わったよね?
マザースフィアが討伐され、綺羅星が城ヶ崎河合と決着をつけてから、しばらく。
中間試験の日程がすべて終了し、教室の雰囲気がふっと和らいだ時、綺羅星の耳にふとそんな声が聞こえた。
耳だけ傾けると、クラスメイトの噂がひそひそと届く。
「前より堂々としてるっていうか……雰囲気?」
「でも委員長、関わった人がみんな学校に来なくなった、って噂もあるけど……」
「そりゃあ相手も相手だし……鎌瀬さんは先生の前でいい格好してるけど、裏がアレじゃない……? 城ヶ崎さんもちょっとヘンだったし……」
「まあね……あの子、悪い子じゃないけどちょっとね……」
教室にひそひそと囁かれる噂話に、綺羅星は心の中でうっすらとほくそ笑む。
全ての理由を、彼女だけが知っている。
S級ダンジョン“凪の平原”にて、城ヶ崎と鎌瀬妹屋とともに遊びに行ったこと。妹屋がカザミとかいう男を雇い、綺羅星を襲撃したものの逆に腹パンを返したこと。
城ヶ崎さんとは色々あって”和解”したこと……。
現在、鎌瀬妹屋は姉見と同じく学校に来ていない。プライドの高い彼女だ、恥辱のあまり顔を出せないのだろう。
さらに城ヶ崎も先日の一件で精神的に参っているらしく、しばらくお休みすると先生づてに聞かされた。
綺羅星に関わっていた人間全員が、二年生に進級して間もなく、休学している。
不自然に思う人もいるだろう。
綺羅星が何かをしたと訝しむ人間がいてもおかしくない。また、学校で直接話をする友達がいなくなった綺羅星は、ある意味友達を失ったとも言える。
そんな綺羅星は……
――幸せだなぁ……と、気持ちよさそうに腕を伸ばしていた。
心が、とても晴れやかだった。
中間考査あけの開放感だけではない。
彼女達を通じて……正しい人付き合いの方法を、綺羅星は知識と身体で学んだからだ。
――人生における大半の悩みは、暴力で解決できる。厄介な人間関係のトラブルは、肉を刻み骨を切り裂けばなんとかなる。
もちろん裏工作も忘れない。
本当は加害者でありながら、あたかも被害者のように振る舞い周囲に印象づけること……大切なのは真実ではなく、他人が真実だと思うかどうかだ。
そして、自分にはそれを成す実力を、少しずつ育んできた。
人として成長した自信が、態度にも出てきているのだろう。
もう、昔のようにびくびくしながら生活する必要もない。
苛立つ相手全てに喧嘩を売るわけではないけど、許容を越えた相手には、遠慮も躊躇も必要ない。
そう、私は強くなった――
と、薄い笑みを誰にも見られないよう隠していると。
「あの。綺羅星、さん。ちょっといい、ですか?」
そろり……と現れた人影に、綺羅星はおやと眉を寄せた。
現れたのはぽっちゃりとした、小太りな少女だ。
髪をボブカットに切りそろえ申し訳なさそうに現れたのは、クラスメイトこと涼風萌さん。カースト的にはほぼ中下位の、ぽちゃっとした、いわゆる弄られキャラな子だ。
悪い子でない、という意識はある。けど、直接話をした記憶もない。
……何の用だろう?
警戒する綺羅星に、彼女がノートを差し出してくる。
「えっと。私、文化祭の実行委員を任されてて……去年、綺羅星さんがやってたなぁと思って、どんな風に進めたのか聞きたくて」
「ああ、文化祭……そうだったわね。今年の文化祭は、うちのクラスは展示……だったわよね?」
「うん。ただみんな乗り気じゃなくて、相談してもあんまり聞いてくれなくて……」
来月の文化祭。色々あったせいで意識から飛んでたけど、先日話し合いがあった。クラスのやる気のなさから、適当な展示物になったはず。
で、今年のテーマは……
「……ダンジョン安全問題、だっけ?」
「うん。まあほぼ、私の案だけど……ダンジョンに関する安全情報を出したいなあって。最近は配信でもふつうにダンジョン攻略しようって言われるけど、今でもダンジョンって危ないものなんだよ~っていう話を改めて、展示にしたいなあって」
まあ、先生ウケがいいから選んだ題材なんだけどね……と頬を掻く涼風さんに、綺羅星はくすりと笑う。
地味だけど、大切な話だ。
ダンジョンに潜るのが普通の時代になったとはいえ、危険性は変わらない。
「それで私に相談しに来たのね。掃除屋のバイトをしてる私に」
「うん。掃除屋さんの元で働いてるって言ってたし、やっぱり、配信者と掃除屋って違うかなって……」
リアルな意見を聞きたいと言われ、綺羅星はすこし警戒を解く。
どうやら、普通のクラスメイトとしての相談らしい。まあ文化祭を手伝えなかった負い目もあるので、自分の経験であればきちんと語ろう。
「それで、綺羅星さんは今までどんなダンジョンに行って、どんなモンスターと戦ってきたのかな」
そうね。モンスターとの戦いの基本は……
「基本はまず先制して相手の不意をついて、メリケン……あ、えっと、チェーンソ……じゃなくて」
「?」
「ふ、普通……かしらね。火炎放射器で焼いたり、毒ガス巻いたり」
「毒ガス? 火炎放射?」
あれ? 火炎放射って、普通じゃないんだっけ。
そういえばダンジョンで使う武器は汎用性のある方が実はコスパが良い、って先生も言っていた。逐一、虫相手に殺虫剤を使ってたら逆にお金がかかる、とも。
まあ先生はガンガン使ってるけど……じゃなくて、ええと。
「……ほ、ほら。大量にモンスターが出てきた時って、毒系の爆弾とかもよく効くのよ。配信映えはしないけど、実際にたくさんの虫とかスライムを倒すのに、剣や槍だと不便なことも多いのよね」
「なるほど……」
「だから掃除の効率で考えると、虫も魔獣も人間も、とりあえず罠にかけて毒殺や爆殺、殴殺したほうが早いよねって、この仕事してると思うときあって」
「人間? 殴殺?」
「……。……ひ、人型のモンスターも、結構いてね? そういう相手って、弱点もやっぱり人と似てるから、有効なの」
そう、とても有効。
人型をしたモンスターは大抵、顔面を殴るといい声で鳴くし、腹パンすると目を見開いて嘔吐くのだ。その無様で哀れな様を見下していると、ぞくぞくと快楽が背筋を駆け上がり最高の気分になる。
足を切ったら逃げられなくなるから苛め放題。
ダンジョン内なら隠蔽も簡単だから、じわじわと嬲るように料理を……じゃなくて、退治の仕方は色々あるし、もっと工夫すれば鳴かせ方……じゃなくて、倒し方もあるはず。
ああ。この前、城ヶ崎さんの自称友達をボコボコにしたのは気持ち良かったなぁ。
妹屋にもこの前、腹パンしたし……もっと面白そうな得物いないかなあ。
……って違う。なんで私、得物探してるの!?
いまはダンジョン攻略の話よね?
「っ……涼風さん。今度、資料にまとめて持ってくるから、それまで待ってて貰っていい? というより、あれね。良かったら私も文化祭、手伝おうかしら?」
「え? 嬉しいですけど、でも、綺羅星さんお忙しいんじゃ……?」
いやまあ、暇ではないけど。でもね?
「私、普通のJKだから。普通のJKは、頑張ってる人を手伝うものでしょ? そう。私、普通のJKでクラスメイトだから……掃除屋はやってるけど、べつに、ぜ、全然、ヘンじゃないから……」
「???」
首を傾げる涼風に、うっすらと冷や汗を流しながら呟く綺羅星。
常識的に考えて、普通のJKは人を殴りたくてワクワクしたりしないのだ。
けど最近、事件がありすぎて。
あと私、最近ダンジョンに潜りすぎて……心は晴れやかだけど、世間一般の基本を忘れてるかもしれない。
先生も「少しの間、大規模なクエスト等は受けないつもりです」と仰っていたし、だから、普通のJKとしての感覚を取り戻すよい機会かもしれないなあって思ったので文化祭に参加してみようと思ったのだ。
ということで、ぜひ手伝わせてください涼風さん。
そう。
私――普通の、JK、なので!!