軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月15日:開戦

12月15日。それはシャングリラ・フロンティアにおける初の大型PvPイベント「王国騒乱」の開始日だ。

双つ相対する王の名の下に集い、エインヴルス王国の正統なる王を決める人間と人間による人間のための闘争。あるいはシャングリラ・フロンティアがゲームではなく実際のスケールを持つ世界であったならば、この戦いは何十年も続いたのかもしれない。だがこれはゲーム、王権を賭けたこの争いは、年を越さずして決着することが決まっている。

「いやー、綿密な計画と地道な準備が結実するこの瞬間は、何度やっても替え難い緊張感だねぇ」

「まぁ、そこは同意かな」

エインヴルス王国サードレマ、その街を統べる大公城の正門前にとある人物を「頭」とした一団が集まっていた。あるいはそれはクラン【旅狼】と呼ばれ、またあるいはレッド・ペンシル・エージェンシー……RPAと呼ばれていた。

「集客は上々、さっきぱやガルちゃんねるの生配信見てきたけど同接5万人行ってたよ」

「とても、多いですね……」

「ノンノン、違うよ 0(レイ) ちゃん。逆だよ」

「 0(ゼロ) です」

「………動画配信を見るのと、シャンフロにログインするのは……両立できない」

「その通り! 正解したルストちゃんの頭を撫でてあげよう」

「……撫でなくて良い」

此度の「王国騒乱」は、噛み砕いて言えば巨大な陣取りゲームである。駒はプレイヤー、そして奪い合う陣のゲーム盤はこの国家そのものという規格外スケールであるのだが。

そしてこの戦い、単なる烏合の衆同士のぶつかり合いというわけでもない。

「向こうはどんな感じなんで?」

「んー、まぁ向こうも全体を制御する気はないみたいだねー。自分ところの配信についてくるプレイヤーと一緒に配信者間で連携しつつ……ってところかな」

しかし、とペンシルゴンは人の悪い笑みを浮かべてゲーム外からのメールを閉じる。

「ま、リアルタイムで情報は流れてきてるんだけどねー、リアル方向で情報収集班がいるから」

「鉛筆王朝コワ……」

ここに集合してからずっと、RPAのメンバーから「いやぁ「あの時」はどうも」とにこやかに握手を求め続けられていたオイカッツォは、自分やサンラク……あるいはルストや秋津茜とも違う、「全体の勝利」の為にどこまでも歯車に徹するRPA達の行動に若干気圧され気味であった。

「それに、カッツォ君も人の事言えないじゃーん?」

「なんのことやら……ボク、トテモセイジツ」

「よく言うよ……」

さて、と黄金の槍を肩に担いだペンシルゴンはサードレマより西方……ここからは見えない、敵の総大将たる新王アレックスの座す方角を見据える。

「陣取り合戦、4:6でこっち不利ってトコだね。だったら無駄な血は流れないに越した事はない。みんなもそう思うよね?」

「……有意義な血があるみたいな言い方」

「そりゃそうさルストちゃん! 百人の赤い血より一人の青い血だよ」

「血が青いんですか?」

「ええと……秋津茜、さん。昔の貴族とか王族の血を「青い血」、と言うことがありまして……」

「そうなんですね……!」

この「王国騒乱」の勝敗は自陣営が占領した街の数が相手よりも多い、または両陣営の総大将たる新王アレックス、もしくは前王トルヴァンテと王女アーフィリアの脱落によって決定する。

街の規模や戦力を考えれば、前王陣営は総大将が二人いるアドバンテージを活かして総大将の捕縛を目指すのがベター。

そういう訳で要人誘拐に極めて強い情熱を燃やすRPAと、 それとは別件で(・・・・・・・) 集められたクラン【 旅狼(ヴォルフガング) 】の面々。

シャンフロにポーズボタンは無い。故に時間は止まらず進み続ける。迫る王国騒乱シナリオの開戦時間。サードレマの特別相談役という地位にまで上り詰めたアーサー・ペンシルゴン、そしてその仲間たちに限らず、前王トルヴァンテに味方すると決めたプレイヤー達はその瞬間を緊張と共に待つ。

「……ん?」

「なんだアレ」

───最初に気づいたのは誰だったのだろうか。

開戦時刻は午後6時。地球と同じく東から昇った太陽が西へと沈むシャンフロ世界において、既に太陽はその姿のほとんどを西の地平線、あるいは水平線に沈めようとしている……筈だった。だというのに、サードレマにいる者達が見たものは、まるで。

「なんか、太陽が昇って………」

◇◇

12月15日。それはシャングリラ・フロンティアにおける初の大型PvPイベント「王国騒乱」の開始日だ。

双つ相対する王の名の下に集い、エインヴルス王国の正統なる王を決める人間と人間による人間のための闘争。あるいはシャングリラ・フロンティアがゲームではなく実際のスケールを持つ世界であったならば、この戦いは何十年も続いたのかもしれない。だがこれはゲーム、王権を賭けたこの争いは、年を越さずして決着することが決まっている。

「はいどーも! 今日はガル之瀬とは別行動なぱやぶさでーす!」

「どうも、今日はソロで動きます。ガル之瀬です」

エインヴルス王国王都ニーネスヒル、王都の権威を示すかのような巨大な城門の前に立つ二人の男。そして彼らを一目見ようと集まった大量のプレイヤー達。わいわいと騒いでいた彼らであったが、ぱやぶさのわざとらしい「静粛に」のゼスチャーで若干の時間がかかったものの、静けさが辺りに広がる。

「さぁ皆さん、ついにこの時が来ました……いよいよシャンフロ初の対人イベント!「王国騒乱」が始まるぞーっ!!」

わあ、と歓声が上がる。ぱやぶさとガル之瀬がこの場にいる、という興奮だけではなく、シャングリラ・フロンティアというゲームにおける初の大規模イベントにこの場のボルテージは否応なく上昇していく。

「作戦ですが!他のメンバーとも綿密に打ち合わせた結果………その場のノリで各自好き勝手にやることになりました!」

「……根本的に各々のスケジュールとかがかみ合わなかったので、まぁ……はい」

おどけた様子のぱやぶさの言葉にプレイヤー達が笑みを漏らす。元よりこの場に集まった全員がぱやぶさ達についていくわけではない。彼らと連合を組んだ他の配信者についていく者もいれば、単純に同じ陣営に所属するだけで自分の好きなように動く者もいる。

そしてそれをぱやぶさ達は止めない。新王陣営は兎にも角にも陣取りゲームで有利を取らなければならないし、新王自身を守ることを考えても数が必要なのだ。それは多ければ多いほど良い、たとえ指示に従わない烏合の衆だとしても数が積もればある程度の壁としての役目は期待できる。

「細かいことは無しで行こうやガル之瀬! 結局のところ、楽しんだもの勝ちだし! ねぇ皆さん!!」

実のところを言えば、ここに集まった聴衆達が思っているほど 無計画ではない(・・・・・・・) のだが……それをわざわざ説明する必要はない、とぱやぶさは配信者としての笑みを浮かべたままに言葉を続ける。

「こっから五日間! 全力で頑張っていきましょうか!! 勝つぞみんなーっ!」

その時だった。

「ん? なんかこっち来てね?」

「遅れて来たプレイヤーじゃねーの?」

───最初に気づいたのは誰だったのだろうか。

開戦時刻は午後18時。薄暗くなりつつあるサーティード、その城門へとゆっくりと近づいてくる影、影、影。それは人の形をしていた。それは人であった。だがそれは……人ではない。それは、まるで。

「……あの人たち、緑すぎない?」

◇R◇

12月15日午後18時。それは王国騒乱シナリオ、開戦の時。

だが、それは同時に……彼らの戦いが始まる瞬間。

「Vooooooooooooooooooooommmmmmm……!!!」

死せる火山の底より、ゆっくりと地上に昇ってきた輝赫の赤色。一軒家程度なら包み込んでしまえそうなほどに広がった蝶の如き炎の翅、そこに浮かび上がる……”眼”。

見つめる先にはサードレマ、炎の翅に浮かぶ視線に熱が籠る…… 文字通りに(・・・・・) 。

翅に浮かんだ眼に炎と光が宿り、増大し、収束する。そして翅に込められたエネルギーに撓んだ翼が大きく羽ばたいた瞬間。

「Kyuririririririririririririririririririririri!!!!!!!」

灼熱の光条が、サードレマに直撃した。

◇G◇

「Kyo、Kyokyokyokyokyokyo」

それは笑っていた。かつて現れた青ざめた恐るべき疫病の馬が、死をまき散らす悦楽に笑ったように。不気味なほどに緑色な異形の孔雀は笑っていた。

己の細胞によって全身を食い尽くされ……生まれ変わる、ならぬ”死に変わった”己が手勢の進む光景に、笑っていた。

目指す先はニーネスヒル。もっと数を増やすために緑一色の軍勢はゆっくりと、だが確実に前へと進む。

「Kyokyokyokyakyakyakyakyakyakyakyakya!!!!!」

ヒトもケモノも入り交じり、その数 二万と百五十三(・・・・・・・) 。

『『モンスター 急襲(レイド) !』』