作品タイトル不明
第二百十五話 HDARU②
「伊藤さん、ありがとうございます。本日は、クランマスターである篠森の推薦もあり、明星と連携関係にある伊藤春彦氏とHDARUの方々の模擬戦による訓練から始めさせていただきます」
(勝手に決めてるんじゃねぇ、せめて伝えておけよ)
これに関しては、流石に言う権利があると思うが、今の状況でそれはできない。
篠森さんの推薦があったことも事実だし、東京支部の山崎支部長も推してくれた。
その手前、明星に迷惑をかけることはできない。
(コイツ、その辺りも全部わかった上でやってるだろ)
今もスラスラとしゃべっていることから、俺が模擬戦を断らないことも、腹を立てることも分かっている。
本当に嫌な奴である。少しは、妹を見習ってほしい。
「では、HDARUの方々は4人、伊藤さんは1人で模擬戦を始めてもらいます」
(しかも、1対4かよ。頭がおかしいのか?)
特殊部隊員が4人がかりでかかってきたら、普通に戦えば、勝ち目なんてないだろ。
単純にダンジョンを攻略する能力を測るのであれば、特殊部隊より上の能力を持った探索者のチームはたくさんある筈だ。
だが、一つのミッションを遂行するということにかけては、探索者よりも特殊部隊の方が上だと言える。
特に、人間相手であれば、特殊部隊の方が優れていることは明白であり、かなり不利な戦いになることが予想できた。
「今回の模擬戦は致命傷にならない範囲で、スキルの使用は許可されていますので、伊藤さんも存分にスキルの力を使ってください」
(スキルありなのか?てか、それは俺も危なくないか)
基本的に模擬戦において、スキルはほとんど使わない。使うとしても、身体強化系のみに限られており、遠距離系のスキルは使用できないのが普通であった。
【魔術】という、万能に近いスキルを持っている俺としては、このルールはだいぶ有利である。
当然、手の内を全て見せる必要はないが、人間相手に有効で、周知されているスキルと同じような魔術は豊富にあった。
「HDARUの方々にはゴム弾の使用を許可しております。あくまでも模擬戦ですので、大怪我をお互いにしないよう注意してください」
(いや、銃器の使用もアリかよ。これだと、勝つのは結構大変だな)
特殊部隊の銃器はゴツイ、ライフル銃である。
明らかに破壊力のある銃器であり、ゴム弾は威力が減少しているとはいえ、それでもまともに喰らえば、痛みが生じると予想できた。
(まあ、でも、やるしかないよな)
俺は、HDARUの隊員たちに目を向ける。
彼らも俺の方を見ており、その目は無機質さを漂わせていたが、目の奥には強い闘争心が滾っているのだろう。
誰もかれも決して、俺から視線を外そうとはしない。
それだけで戦いの準備はできていることは、伝わった。
「では、移動してください。近接用の武器は、こちらをどうぞ」
ゴム製のブレードやナイフを渡された俺とHADRUの隊員たちは模擬戦を始めるため、やや離れた位置に立つ。
その距離は二十メートルほどであり、高位の探索者であれば、一瞬で詰めることができるほどの距離だ。
つまり、実質的な距離は、ほぼ一歩分と考えてよい。
(【身体強化】【肉体強化】【神経強化】)
身体能力を強化する系統の魔術を、3つ並行して発動する。
これだけ強化していれば、相手が色々なスキルを持っていたとしても、即殺されることはない筈だ。
(レベル的には近い感じなんだよな)
ヤバいって感じは、そこまでしない。
だが、銃を受けられて、上手く対処できるのかどうかは分からないので、そこ次第である。
「では……はじめ」
淵田翼の合図とともに、HDARUの隊員たちは一斉にライフルの銃口を俺に向けた。