作品タイトル不明
第二百十四話 HDARU
素材の売却を終えた後は北海道の旨い飯を食べて、ぐっすりと眠った。
借りている家は警備員も駐在する、セキュリティのしっかりとしたマンションである。
ふかふかのベッドなので、起床するのも若干億劫になるが、それでも最近の生活リズムは良い感じなので、目覚めることができた。
トーストとコーヒー、最近は定番となっている朝食を取り、明星の本部へと向かう。
探索を行った次の日なので、ゆっくり休んでもいいのだが、今日は明星の方から呼び出しがかかっていた。
(まさか、特殊部隊の人とまた会うとはな)
東京ではテロ事件に巻き込まれる形で特殊部隊の人とかかわることになった。
日本では各都道府県に特殊部隊が存在しており、北海道にも3部隊存在している。
そのうちの一部隊が、明星と合同訓練をするそうなのだ。
(探索者への対応力強化という名目ではあるが)
その実、明星と北海道警察の結びつきを深めるイベントである。
この世界では、体制側および大手クランの結びつきは強い。
というのも、ダンジョン内での案件において、探索者がかかわらないことはまずないからである。
例えば、犯罪者がダンジョンに逃げ込んだとしよう。
そうなった際に、警察や軍はそのダンジョンの探索に詳しい者に協力を要請する。
勿論、ダンジョンにも限りがあるので、警察なども訓練などで使うケースはあるだろうが、普段から潜っている探索者の方がその知見は数段上となる。
それ以外にも、ダンジョン内のモンスターの異常発生などには探索者が主力となった討伐隊が結成されるし、その際には体制側も一枚噛むことを考えると、両者の繋がりは強固である方が望ましい。
それに探索者側にもメリットはある。
かなり荒れたご時世であることを踏まえると、国家権力に伝手があるのはマイナスではない。
いざという時に使えるカードになるからだ。
「伊藤さん、おはようございます!」
「おはよう、日向さん」
日向さんの元気のいい挨拶を受け、俺も手を軽く振りながら返す。
(相変わらず、ここは広いなぁ)
明星本部は小さな町と言いたくなるほどに、様々な建造物が立ち並んでいる。
訓練用の施設、研究所や探索者や職員用の宿舎も併設されており、中でも大演習場はひときわ大きい施設であった。
普段から札幌ダンジョンの攻略メンバーが合同で訓練をする際に使う施設であるが、今回は特殊部隊との合同訓練とのことなので、大演習場が使われることとなったのである。
(やっぱりいるか)
会場には、既に人が集まっており、そこには副クランマスターである淵田翼の姿もあった。
(似てるのか?)
こずえさんと淵田翼、正直、あまり似ていないように思えてしまう。
頑張って姉妹だと認識しようとしても、どうしてもそれを拒む俺がいた。
(だって、あんなおっとりしている、こずえさんが淵田翼の妹なわけだろ……)
淵田翼は氷のように冷たいイメージしかない。それに対して、こずえさんは柔らかく包み込んでくれるようなイメージであり、似ても似つかない。
どちらも整った顔立ちはしているのは事実だが、方向性はまるで違う。
勿論、性格もだ。
「今回は、HDARUの方々に来てもらいました」
(HDARU?)
北海道に特殊部隊がいることは知っているが、その部隊名は知らない。そのため、略語で語られても、全く分からなかった。
俺はそっと、日向さんの近くに行く。北海道に長くいる彼女であれば、何か知っているだろうと思ったからである。
「日向さん、日向さん、HDARUってなんですか?」
「あっえっと、HDARUは【北海道ダンジョン異常事態対策部隊:Hokkaido Dungeon Anomaly Response Unit】の略称です」
日向さんは少しおどおどしながら、言う。
どうやら、突然距離を詰めたのは、良くなかったらしい。
日向さんと一緒にチームを組んで、そこまでの期間は経っていない。日向さんが距離をぐんぐん詰めてくるので、大丈夫かと思っていたが、こちらから距離を詰めるのは、まだ駄目なようだ。
俺は自分から距離を詰める時には気をつけようと自戒しつつ、部隊のことは気になったので、少し距離を取って、再び質問する。
「有名な部隊なのか?」
「それは勿論です。彼らは北海道の中でも最高の部隊の一つですよ」
淵田翼の横で整列する、現代兵装に身を包んだ隊員たちを見る。
全身黒塗りの防具に、破壊力のありそうなライフル銃、そしてサブウェポンと思われるナイフもあり、まさに鎮圧部隊のイメージをそのまま具現化したような風貌だ。
体格もよく、身体能力もメンタルも強そうである。
探索者になる前であれば、半径十メートル以内には近づかないようにしていたかもしれない。
それほどまでに、威圧感のある一団だった。
(どんな訓練をするのか、見るの楽しみだな)
俺は訓練に参加する予定はない。
ただ、探索予定のない明星の探索者などには招集がかかっており、それで集まっただけである。
「では、伊藤さん、前に出てください」
俺が呑気にしていると、突然、淵田翼から声がかかる。
(は?なんも聞いてないぞ)
周囲の視線が、一気に俺へと集まる。
篠森葵が推薦した探索者ということもあり、俺の存在は明星内で広く知られている。
そのため、しらばっくれようとしても、そうはいかない。
(嵌めやがったな、あの女)
いい笑顔でこちらを見てくる淵田翼に、キレそうになるのを抑え、俺は笑顔を無理やり貼り付けながら、前に出ていくのであった。