作品タイトル不明
第二百十三話 モンスターと名称
「淵田さんに聞きたかったんですけど、このモンスター、なんでミノタウロスって名前のままなんですか?」
北海道第7ダンジョンのボスモンスター、ミノタウロス。
名称こそ、佐々木ダンジョンを徘徊するモンスターと同一であるが、その姿かたちは全く異なる。
ダンジョンにいるモンスターは同種であっても、風貌が異なることがある。これはダンジョンや階層の難易度に影響を受けているそうであるが、北海道第7ダンジョンのミノタウロスは難易度の違いで説明ができないほどに全く違う姿だ。
普通に考えて、別の名前を付けた方が分かりやすいし、非合理的であることは誰でも分かる。
にもかかわらず、わざわざ【ミノタウロス】という名称にしているのだから、理由がない筈がなかった。
「こずえさんで、いいですよ。苗字だと、姉と一緒で紛らわしいので」
「いえ、それは「私、伊藤さんの為だけに北海道まで来たんですけど」はい、こずえさんと呼ばせてもらいます」
それを言われると弱い。自分のために東京から北海道まで転勤してもらっておいて、名前で呼べないのはむしろ失礼だろう。
(あれ、俺が名前で女性のことを呼ぶのって初めてじゃないか)
これまでの人生を振り返ってみても、女性を名前で呼んだことなんてない。
学生時代は灰色の青春を送っていたし、企業に就職してからも浮ついた話はなかった。
探索者になってから、急激に女性とかかわるようになったが、それ以前は全くと言っていいほどにかかわったことはない。
(なんか、顔が熱くなりそうなんだが)
いざ、名前呼びをしたことを認識すると、急激に心拍数が上昇する。
こんなことなかったのだ。本当に、マジで。
「でしたら、私のことも一花と呼んでください」
俺が固まっていると、東雲がサッと距離を詰めて、目を合わせてくる。
東雲との関係性を考えると、別に呼んでもいいのだろうが、生憎、今はそれどころではない。
「じゃあ、私もま…」
「貴方はまだ出会って、1ヶ月も経っていないですよね」
ホラーさながらに、東雲の首がグリンと日向さんの方を向く。
「はい、その通りです」
俺の方からは東雲の目は見えないが、相当に怖い目つきをしていることは想像に難くない。
「それで、ミノタウロスについてですが、これは、元々は別の名称だったのが、鑑定によって覆った形ですね」
【鑑定】というスキルは、かなりのレアスキルであり、このスキルがあれば、まずくいっぱぐれることはない。
効果は単純、様々な物の情報を見るだけで取得できる。
このスキルの凄い所は、鑑定によって取得した情報は正確であるということだ。間違いというものがない。
「モンスターですが、大抵は付けられた名と鑑定時に出てくる名が一緒なのですが、今回伊藤さんがお聞きしたミノタウロスは、名が異なっていました。情報の正確性から、探索者協会では鑑定結果が優先されるので、ミノタウロスとされています」
「だとしたら、ある程度納得がいきます」
(正直、よくわからないが)
実際に佐々木ダンジョンでミノタウロスと戦った身としては、今日戦ったモンスターをミノタウロスと認識するのに抵抗がある。
ただ、探索者協会が定めたことなので、それに従うしかない。
(一体ダンジョンって、なんなんだろうな)
モンスターを倒せば倒すほどに強くなることも、よく分からないし、そもそも、なぜ、ダンジョンが出現したのか。
謎が深まるばかりであり、これからもダンジョンに潜り続ける身として、どうしても、違和感が残るのであった。