作品タイトル不明
第二百九話 チケット
俺が宝箱の蓋を開けると、そこには一枚のチケットが置かれていた。
(なんだこれ)
白いチケットの中央に魔法陣が一つ描かれている。
妙に複雑なソレは何かしら強い効果を持っているのだろうが、どのような魔法なのか、俺では検討が付かなかった。
(魔法陣を使った魔術も、膨大な数だからな)
【魔術】のアップデートにより、俺の知識量は増えているが、それでも魔法全体を網羅できるかというと、否である。
魔法陣を使った魔術も、世界によってはだいぶ発展しており、主要な技術体系とされていたことも確認されている。
(いや、待てよ。これって転移系か)
魔法陣を使った魔術の中でも、最も重要視されていたものの一つが、転移系の魔術である。
転移系の魔術は、行使に大量の魔力と術者の技量が求められる。
俺の知識にある転移魔術の魔法陣が、この魔法陣と似ているのを、なんとか思い出せた。
「これは転移チケットですね。ダンジョンから脱出する際に使うものです」
俺がひらひらとチケットを揺らしていると、東雲が説明を始める。
「有名なので、知っている人は多いですが、大手のクランが欲するアイテムなので、高額で取引されていますね。特に大手クランが難関ダンジョンの到達階層の更新、ダンジョンの攻略に失敗した後は、高値で売れます……ね」
東雲が最後に日向さんの方を見ると、彼女は苦笑を返した。
(そうなのか…って、結構価値のあるアイテムじゃないか)
「たしか、契約上、私たちが手に入れたアイテムは総取りだそうですが、日向さん、問題ありませんか?」
「担当者に聞いてみないと分からないですが、恐らくは、こちらの方で高値で買い取る運びになるかと」
「私たちが欲していた場合は?」
「それは勿論、皆さんのモノにしていただいて構いません!あくまでも、探索者協会に売る場合の話です」
日向さんが焦った表情になると、必死に身振り手振りで言う。
「ちなみにだが、これ、通常価格でいくらぐらいなんだ?」
「最低でも、1000万円はするでしょうね。高い時は2000万ぐらいでしょうか」
「そこまでするのか?」
「ダンジョンを脱出する手段ですからね。昔の話ではありますが、攻略が進んでいない時期は、このチケットはもっと貴重だったので、1億はしていた時期もありましたよ」
「嘘だろ」
俺たちが倒した、ハイ・ライカン・スケルトンの素材よりも全然高い。
それだけ、ダンジョンから離脱する手段が戦術的に重要であったということなのだろう。
「今では、そこそこ手に入るので、価値は下がっていますけど、明星は常に買い集めていますね」
日向さんの補足が入る。
「だったら、持っておいてもいいかもな」
大手クランが買い占めに走るくらいなら、手元に持っておいても損はないだろう。
それにダンジョンという、異常な空間から外に出るのは、魔術をもってしてもリスクが高い。
端的に言えば、異世界に転移するのと近いレベルで大変なことだ。
「私もそう思います」
この転移チケットは、売らずに手元に置いておくことに決まった。