作品タイトル不明
第二百八話 疾風迅雷
日向さんの構えは異様な雰囲気を醸し出していた。
東雲のような圧倒的なモノ(強さ)は感じないが、なんというか、東雲に近い怖さがある。
目つきも普段の明るいモノではなく、絶対に一撃で仕留めるという強い意志を感じた。
(やっぱり、このぐらいになると違うよな)
俺やヴァルに対して、東雲や日向さんの違いは、圧倒的な経験と研鑽の時間だ。
そうした違いは分かりやすい強さを表に見せないが、探索者など、命の取り合いをする者に怖さを生まれさせる。
(モンスターはそうしたものを分かっていなさそうであるが)
巨大な銀剣蝶はふわふわと余裕を感じさせるような雰囲気を出している。
それが銀剣蝶の特性のようなものであるが、それでも逃げる素振り一つ見せないのは、モンスターの性質か、はたまた余裕か。
「では」
日向さんの短い言葉と共に、その圧力が膨れ上がった。
彼女は疾風迅雷の如く、巨大な銀剣蝶との間合いを詰め、薙刀を用い、突きを放つ。
(正確だな)
巨大な銀剣蝶の頭が、先程と同様に破壊される。
ゆらゆらと動く銀剣蝶は素早い動きを見せることなく、一撃で破壊された。
「どうでしたか?伊藤さん」
ニコニコとした顔でこちらに寄ってくる、日向さん。
気配の薄さは武術を修めているからか、こちらも東雲と近いものがあった。
「今のどうやったんだ。動きは、結構読みにくい筈だが」
「それは呼吸ですね」
「呼吸……?」
「こればっかりは経験によるものなので、たぶん伊藤さんもできるようになりますよ」
少しはぐらかされた気もするが、実際、時間をかけないと会得できないものも多い。
「こんな感じかな」
ヴァルが近くの巨木に槍で突きを放つ。
その動きは先程の日向さんの動きに酷似していた。
「巧いですね。嫉妬しそうです」
日向さんの言葉に、内心同意する。正直、直ぐに何でもできるのは、羨ましいことこの上なかった。
「私の方も終わってはいますが、呑気ですね」
東雲がひょいっと距離を詰めて、こちらにやってくる。
さっきまで東雲がいたところには、銀剣蝶の死体が散乱しており、ところどころ部位が欠けているのは、売れる素材を剥ぎ取ったからだろう。
(速いよな)
手際があまりにも良すぎる。レベルが高いだけだと、力で圧殺することはできるが、ここまで丁寧に死体を作ることはできないだろう。
特に、探索者はある程度の状態を維持して倒す必要があるので、探索者は技術が無くては食べていけない。
そういった意味では、東雲一花は、探索者として完成されているとも言える。
「さて、宝箱のアイテムはどんなものか」
何かいいアイテムであれば、いいのだが。
そんなことも思いつつ、ウキウキで宝箱の下へ行く。
皆が中身に注目する中、俺は宝箱の蓋に手を伸ばすのであった。