作品タイトル不明
第二百七話 蹂躙と宝箱②
東雲の指さす方向には、先程まではなかったはずの宝箱が出現していた。
「伊藤さん、モンスターもいます」
その上、宝箱の近くには、普通サイズの銀剣蝶が10匹に加え、3倍ほどのサイズのものも1匹、出現していた。
(レアモンスターか)
ユニークモンスターほどの強さは持っていないものの、レアモンスターも相応に厄介ではある。
レアモンスターは通常個体の上位個体のような存在で、厄介さが上昇する。ユニークモンスターはそもそも、対処方法が確立されていないことがほとんどで、戦った場合は生き残ることが難しい。
ユニークモンスターほどの理不尽さは感じないが、もし、通常個体に苦戦しているようなら、レアモンスターを相手にするのはやめたほうがいいとされている。
(このモンスターたちを倒さないと、宝箱は開けられないんだろうな)
先程まで、モンスターの姿も気配も存在しなかった。
こちらが宝箱を漁るには、目の前にいるモンスターを倒すことが求められる。
「恐らくは先程の群れを倒したのがトリガーになったのだと思いますが……今回は私が先陣を切りますので、後はお願いします」
東雲が俺たちの先頭に立ち、刀を構える。
ゆったりとした動作から、山を幻視するほどの芯の感じる構え、いつ銀剣蝶たちがこちらに向かってきても、たちまち蹂躙してしまえそうな気迫があった。
その構えが揺らいだかと思うと、東雲は残像を残して、消えた。
(同時に5匹もやりやがった)
俺にも見えるほどの速さで振ったにもかかわらず、一太刀で銀剣蝶が5匹、両断されていた。
どの銀剣蝶も同じ個所を斬られており、恐らくはそこが柔い部分なのだろう。
「じゃあ、伊藤さん、ヴァル、私たちも行きましょうか」
日向さんの言葉に、俺とヴァルも頷く。
残りの銀剣蝶たちのほとんどは、東雲の方に向かっていっている。
では、何が残っているのか?
(レアモンスターか)
体長は3メートルを超えていそうな、巨大な銀剣蝶。
レアモンスターと言えば、佐々木ダンジョンでは弓使いのミノタウロスがいたが、ただでさえ強いミノタウロスが遠距離の攻撃手段を用いてくるなど、強さとしては1、2段階は上の存在であった。
「伊藤さん、魔法の方、お願いできますか?」
日向さんの言葉に、俺は黙って頷くと、手をかざし、呪文を唱えた。
「【アイス・キャノンボール】」
氷の砲弾が射出され、巨大な銀剣蝶に直撃する。破砕音が響き、銀剣蝶を象徴する剣が幾本も折れている。
致命傷かと思われたが、突然、折れた剣たちが宙を浮き、剣先をこちらに向けた。
(えぇ)
しかも、ぽっきりと折れた部分は再生を始めており、そもそも剣が折れても宙を浮いていることから、特に羽は必要ないことが窺える。
剣をへし折っても、この巨大な銀剣蝶を地面に落とすことはできないということだ。
「ヴァル」
折れた剣たちが一斉に、俺たちの下へと殺到する。精々4本ぐらいであるが、普通の銀剣蝶よりも、レアモンスターの銀剣蝶は図体がかなり大きいので、剣もそれに比例して大きくなっている。
ヴァルは大きく前に出ると、大盾を地面に刺すようにして攻撃を受け止めた。
(一歩も動いていないな)
大剣のようなサイズの剣がぶつかっても、びくともせずに、全ての攻撃を受け止め切っている。
ヴァルの表情も涼しい顔をしており、先程の攻撃をものともしていない。
(恐らくはレベル200以上が推奨されるモンスターだが、流石に余裕か)
東京ではこのくらいの強さのモンスターは散々相手にしてきた。
レアモンスターであるため、少々厄介な性質を持っているが、強さで測るならば、問題になるような相手ではない。
(どうやって攻略するか)
「では、私がいきます」
次の攻撃をどうしようかと考える間もなく、日向さんが薙刀を構え、そう言った。