作品タイトル不明
第二百六話 蹂躙と宝箱
終わってしまえば、あっけない戦いではあったが、俺がソロで挑んでいれば、魔術で一網打尽にしないと危ないモンスターである。
日向(ひなた) さんも、明星内でも戦闘力が高く評価されている実力者であり、俺たちのチームにいても何ら違和感のない強さを持っていた。
(日向さんも一人で戦うのが得意なタイプだな)
俺たち全員そうなのであるが、細かい連携をするよりも思いっきり好き勝手戦っても問題ない、もとい、個人の強さで乗り切れてしまう人間の集まりである。
東雲もソロでダンジョンに潜るのが日常だったそうだし、ヴァルもの面で完結していると言える。
魔術を自由に使える俺も、近距離、中距離、遠距離と間合い選ばずに戦えるタイプであり、ソロ向きであった。
日向さんの場合は、そこまでではないものの、薙刀を使った寄せ付けない戦い方や投擲、サブウェポンの小太刀の二刀流など、正直、一人になっても何とか乗り切れるような武器と戦い方である。
「日向さん、次の戦闘は俺とヴァルと日向さんで連携の練習をしないか?」
東雲はいざという時に動いてくれるよう、待機してもらう。
彼女も、それは分かっているのか、特に俺に反論してこない。
俺が日向さんの方を見ていると、彼女はニコっと笑顔を作った。
「はい!ぜひ!」
こうして、次の戦闘は連携して戦うことが決まった。
♦♦♦
「作戦はどうするんですか?」
「一応、ヴァルが盾役、日向さんが攻撃役、俺が魔法で攻撃だな。 銀剣蝶(ぎんけんちょう) を見つけたら、俺が先制攻撃を仕掛ける」
「了解です」
東雲からアドバイス等も飛んでこなかったので、これで問題ないだろう。
軽くタイミングの打ち合わせをしながら森林地帯を進んでいくと、開けた場所に出た。
不自然に開けた空間に視線を向けると、その先には銀剣蝶の群れがヒラヒラと舞っている。
(6匹か……さっきよりも多いな)
この手のモンスターは、必ずしも同じ個体数で群れを作っているとは限らない。
概ねの数は変わらないが、2匹程度は前後するのが割とよく起こる。
「じゃあ、いくね。ご主人」
ヴァルが大盾を構え、大きく踏み出していく。
すると、銀剣蝶はヴァルを視界に捉えたのか、ゆったりとした動きでまとまって、近づいてきた。
(今か)
俺は手のひらを銀剣蝶の群れに向け、魔術を発動する。
「【アイス・キャノンボール】」
これまで主に使ってきた【アイス・カタパルト】より高位の魔術、【アイス・キャノンボール】。
【アイス・キャノンボール】によって生成された氷の塊は、直径5,60センチほどの氷の球体であるが、射出された際の威力、速さは、【アイス・カタパルト】よりも上である。
(2匹しか倒せなかったか)
発射された氷の砲弾は直撃した銀剣蝶の肉体を容易くひしゃげさせ、容赦ない暴力を見せつける。
それでも銀剣蝶の動きは止まらない。
直撃しなかった、残りの4匹はヴァルに殺到する。
(どうする)
ヴァルが盾役を放棄すれば、4匹相手に立ち回れるだろうが、それでは他のチームメンバーが攻撃を貰う可能性を生む。
この相手に攻撃を貰うことはまずないが、より素早く動くモンスターであれば、危ないかもしれない。
(日向さんが一気に前に出たな)
ビュンッと風を起こすような速さで、日向さんが前に出る。
東雲やヴァルの動きを見慣れていなかったら、 愕然(がくぜん) としていたに違いない。
それほどまでに素早く、自然な動きで駆けていた。
(2匹はいけそうだが)
ヴァルの大盾と槍によって、2匹の銀剣蝶が無力化される。
1匹は大盾を正面からぶち当てられ、もう1匹は槍で串刺しにされた。
残るは2匹であり、ゆらゆらとした動きながらも、素早くヴァルの側面に回り込もうとする。
(はや)
その瞬間、日向さんの薙刀が揺れる。
一瞬の間に連続して突きが放たれた。薙刀が一瞬2本に見えるほどであり、その動きは対称的な寸分違わぬ動きによってなされていた。
強さというより、上手さと速さの光る動きであり、技術と経験の厚みを感じさせる動きであった。
(これは蹂躙と言っても過言じゃないな)
銀剣蝶たちは十秒足らずで、全て亡骸と化していた。
俺が魔術で倒した亡骸もそうだが、ヴァルと日向さんが倒した銀剣蝶たちも、かなり無情である。
日向さんの薙刀による一撃は、銀剣蝶たちの頭部を完全に破壊しており、なかなかに惨い。
「伊藤さん」
東雲が俺の横に立つ。気配を薄めていたのか、近づいてきていたことに全く気付かなかった。
「どうしたんだ」
「宝箱があります」
「え」
いつもの調子で聞いたのであるが、東雲からまさかの言葉が出た。
宝箱、それはダンジョン産のアイテムを手に入れる唯一の方法である。
科学技術とダンジョン産の素材を使った武器や防具が一般化する昨今において、アイテムというのは必ずしも有用なものとは限らない。
だが、それ以上に探索者たるもの宝箱を空けるのは、何よりもの楽しみなのだ。
「どこにあるんだ」
俺の言葉に、東雲はそっと指を指す。
木々の間にひょっこりと、宝箱は姿を現していた。