作品タイトル不明
第二百五話 銀剣蝶②
銀剣蝶(ぎんけんちょう) の動きは、読みにくい。
ゆらゆらと揺れるようでいて、時折機敏に宙を舞う。
避けることに集中していれば、掠りもしないが、その動きを掴んで、カウンターを決めるとなると、簡単にできるものではなかった。
(それを簡単にできるのが才能なのか)
はたまた、積み上げられた経験なのか。
(いや、ヴァルができるから才能か)
ヴァルと日向さんは、順調に銀剣蝶を追い詰めている。
いくつか攻撃を当てているし、クリーンヒットでもすれば、直ぐに倒すことができる状態にあった。
それに対して俺は、まだ上手く一撃を当てられていない。
(距離が遠い)
生存重視の間合いは、どうしても一歩、二歩分の距離が遠くなる。
その遠くなった分、モンスターの攻撃が届きにくくなるが、こちらの攻撃も届きにくい。
銀剣蝶はこちらの攻撃を躱すのも、それなりに上手だ。
掴みどころがないというのもあるが、刀が当たる距離になると、するりと距離を離して、安全圏に移動している。
(飛んでいるのも厄介だ)
こちらは地面に足をつけて戦っているので、高く飛ばれると、魔刀を届かせるのにも一苦労する。
勿論、跳躍によって、一気に距離を詰めることができるが、それは生き残るための動きからは、外れた動きだ。
人間である以上、跳躍することで無防備になる時間ができる。
今回のようなケースでは問題ないが、後の戦闘で俺が選択をミスして、不用意な跳躍を選択しかねない。
(そう考えたら、俺もだいぶ強くなったな)
攻撃手段や動きをここまで狭めても、命の危機には陥りそうにない。
レベルの向上、技術練習、経験、全てが血肉となり、順調に能力を伸ばし続けている。
(というか、俺の場合は生存重視があっているな)
魔術の性質を考えると、当然と言えば当然ではあるんだがな。
何というか、居心地がいいというか、安心する。
(戦っている最中にそこまでにはならないが)
俺は突っ込んでくる銀剣蝶を、魔刀で牽制しつつ、避ける。
銀剣蝶も剣先に突っ込んでくるほど、馬鹿ではない。
魔刀の構え方次第で、銀剣蝶の動きを多少は誘導できるので、剣先や刃の向きで調整しつつ、銀剣蝶との距離を保っている。
カウンターが上手く入れられないのは、これまでの間合いと今の間合いが上手く連動していないからだ。
(今回の戦闘で上手くつながりそうだな)
苦戦ほどではないが、訓練のような実戦を通して、距離感を掴み始めている。
詰めてはいないが、距離を掌握しつつあり、このまま戦闘を続けていけば、有効な間合いを理解できると確信していた。
(速い)
音もなく加速する、銀剣蝶。
これまでは羽音を鳴らしていたが、突然無音となって、今までよりも一段、二段も上の速さで突っ込んできた。
銀剣蝶の羽は剣でできており、人間の俺に直撃すれば、スパッと切断されてしまうだろう。
それぐらいの切れ味はあるはずで、直撃を許して良い相手ではなかった。
(だが)
加速した銀剣蝶の動きはこれまで以上に危険であり、勢いも相まって、その威力も強烈であろう。
しかし、その程度で俺が距離を間違えることはない。
(もらった)
躱したすれ違いざまに、一閃。
銀剣蝶の攻撃を完璧に躱した上で、一方的にこちらが攻撃できる距離で一撃をお見舞いした。
魔刀の切れ味は予想通り凄まじく、銀剣蝶の羽(剣)ごと胴体を両断している。
地面に落下した銀剣蝶の亡骸はピクリとも動いておらず、即死させたことが窺えた。
「見事です」
ヴァルと日向さんの戦闘は終わっており、東雲が残りの一匹を複数回の刺突であっけなく屠っている。
(相変わらずの剣技だな)
この領域には到底追いつけないだろうが、それでも東雲とも戦えるぐらいには強くなりたい。
成長を噛み締めつつ、俺は東雲の剣技を目に焼き付けた。