作品タイトル不明
第二百四話 銀剣蝶
俺たちはやや硬い土を踏みしめ、鬱蒼と茂る森林を進んでいく。
そして、少し開けた場所に出ると、そこには一メートルを超える巨大な蝶が五匹、空を舞っていた。
(これが 銀剣蝶(ぎんけんちょう) か……)
この階層を徘徊するのは、羽が全て銀の剣でできた巨大な蝶である。
刃は光を反射し、その鋭さを惜しげもなく晒している。
強さ、という面で考えると、単体での評価は低い。
銀剣蝶というのは、モンスターの水準としては並みのスピードで攻撃を仕掛けてくるため、しっかりと見ていれば避けることは難しくはないだろう。
全部で十二本の剣によって蝶の羽を形作っている。一本、一本の切れ味が鋭く、恐ろしいが、当たらなければ、どうということはない。
(問題はリズム)
この蝶たちの攻撃パターンは非常に巧みである。
呼吸が読みにくく、熟練のチームであっても、その攻撃のリズムを初見で完璧に理解することは難しい。
一定のものではなく、その時々によってリズムが変化するため、事前に予測を立てて対応を決めておくのも困難だ。
俺たちは経験的、感覚的な連携を得意としているので、こういった、緻密な連携、技術面で高いものを求められるよりは、幾分向いているとは言える。
しかし、相手は純粋に厄介な存在であり、才覚のみで対処すると、俺なんかは普通に危ない。
東雲、ヴァル、日向さんの天才三人組は余裕で避けることができるだろうが、俺はそんなことはできないのである。
事前に魔術で身体能力を引き上げ、攻撃を貰う可能性を極力減らす必要がある。
北海道に来てからは東雲と生存能力を向上させるトレーニングを積んできた。
センスがあるタイプではない俺であるが、生き残るという能力は確かに向上している。
(危うい場面が減ったからな)
レベル差はあれど、戦いにおけるリスク管理能力が明らかに向上しており、余裕のある処理を行っている。
命を懸けた戦いにおいて、死のリスクを極力減らすことは、俺みたいなタイプの探索者(才能に比してスキルが強力なタイプ)には重要であったようだ。
「来ますね」
チーム全員が武器を構える。
奇怪な羽音を響かせながら、銀の蝶たちがこちらに近づいてくる。
最初はゆっくり、決して急いでは来ない。
一瞬で距離を潰せる機能があっても、それを出してこないのは、銀剣蝶の無機質な瞳と相まって、一層不気味に見えた。
(来るか)
俺が足に力を入れても、銀剣蝶はスピードを速めない。
東雲が瞬時に距離を詰め、一匹を一刀のもと、切り伏せた。
(来る)
その瞬間、銀剣蝶は素早く距離を詰めてきた。
対象は俺。この中で一番、実戦における経験の劣る存在だ。
(甘いな)
三匹の銀剣蝶が独特のタイミング、躱しきるのは難しいようなタイミングで迫ってくる。
だが、俺を含め、三人ともあっさりと捌いて、距離を潰させない。
ヴァルや日向さんはカウンターの一撃を浴びせているし、この程度のモンスターであれば、変則的なタイプであっても問題ないようだ。
(さて、集中するか)
そこまで速くないと言っても、相手はモンスター。基準は一般人と同じではない。
特に、飛行物体が時速80~100キロ程度で迫ってくるのだから、余裕を持ちすぎるのは危なかった。
(俺は変則的なタイプに慣れていないからな)
こういった戦いでは、もろに技術面での不足が目立つ。
これはどうしても才能などが関わってくる部分なので、飛躍的に伸ばすことは難しい。
才能があれば、様々な動きを上手く応用できるのだろうが、俺は現在、生存することに重きを置いた動きをしている。
もう少し慣れていけば、既に身に付けつつあったカウンターの技術や多少前に出ることも覚えていたので、上手く結びつくのだろうが、それはまだ先のことである。
(だけど、生き残るのは問題ない)
生存するという目的は驚くほど容易にこなせている。
銀剣蝶の攻撃は、全くと言っていいほど、俺を捉えられておらず、戦闘時に生じる危険な感じはほとんどない。
むしろ東雲との模擬戦の方が、危険を感じるほどだ。
(ここから、どうやって仕留めるかだな)
銀剣蝶が迫ってくるのを、余裕を持って回避する。
現状、銀剣蝶の攻撃は俺に掠る気配すらないが、同時に俺も決め手には欠けていた。
魔術で仕留めるには、まだ、味方が近くにいる。
(魔刀で仕留めるか)
既に身体能力などは、このモンスターを倒すのに不足していない。
魔術を用いるのなら、最初にまとめて吹き飛ばすべきだったが、既にそのタイミングではなかった。
(余力を残しておかないとな)
魔刀の切断能力は、銀剣蝶相手でも問題ないだろう。
切れ味は一級品であり、銀製の剣など容易く切り裂くことができるのだから。