軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十九話

「伊藤君、明星に入らない?」

篠森さんの目がじっと、俺を捉える。

真っ黒な瞳は、彼女が潜ってきた修羅場の数が並みの量ではないことを示しているのであろうか。

「その件については以前、断ったので」

篠森さんの瞳に意識が吸い込まれそうになったが、冷静になった俺は、彼女の提案を断る。

明星の勧誘は、山崎さんに勧誘された時、既に断っており、現在もその気持ちに変化はない。

むしろ、今の俺はクランには入らずに、そのままフリーの状態で上を目指していきたいと考えが強くなっていた。

それは、現在のレベルの上がり具合や仲間の質、それらを鑑みて、クランなどに入らずとも十分に上を目指せると判断したからである。

「それは知ってるけど、そんなの関係ないよね」

当然、俺が断った情報は篠森さんに伝わっていたようであるが、彼女はそんなことはお構いなしのようだ。グッと身を乗り出して、俺に顔近づけてくる。

先程は目に意識が向けられたが、今度は彼女の整った造形の顔に目がいった。

「関係ないとは?」

整った顔立ちに相応しい、傍若無人ぶり、幼さが色濃く残っているのは、その見た目だけではないようだ。

「私は君に明星に入って欲しいんだ、絶対にね」

確かに、篠森さんは当時、勧誘された場にはいなかったし、そもそも勧誘自体をしてはダメな理由もない。

まだ、短い時間しか付き合いはないが、篠森葵という人間が、自身の欲望を簡単にあきらめるような人間ではないことは明らかである。

俺の頬に、篠森さんの両手が当てられる。

冷たくも温かくもない、彼女が本当に生物なのか疑わしいと思えるような、そんな体温であった。

「それでもです。今で満足していますので」

だが、俺の意思が変わることはない。

篠森さんの想いは本当なのだろう。

どういった感情の発露によって、俺を勧誘しているのかは分からないが、気に入られているのは明白であり、気に入っているものを近くに置いておきたい気持ちがあるのも理解はできる。

だが、俺にとって、明星というクランに入ることはそこまでメリットが大きなものではなく、短い付き合いでしかない、篠森さんの想いに応えたいという気持ちもなかった。

「絶対?」

「はい」

「…………うそだあ、わたしのかんゆうをこばむなんて」

数秒、じっと俺を見つめた後、篠森さんはボロボロと涙を流し始めた。