作品タイトル不明
第百七十七話
東京におけるテロ事件の多くは対テロ特殊部隊によって鎮圧される。
それは東京都内に多くの精鋭が配備されており、かつ、彼らは世界でも有数の能力を持っているからだ。
「クリア」
全身を真っ黒な装備で固めた集団が、オークション会場内を進んでいく。
彼らの通った場所にはいくつもの死体が転がっており、いずれも一発で急所を撃ち抜かれていた。
ダンジョンの攻略が進むことによって、特殊部隊の装備もより強力なものへと変化していた。プロテクターやヘルメットには竜種の鱗や希少金属が使われ、実戦用の銃弾には魔法金属がふんだんに使われている。
これらの装備は、高レベルの元探索者が相手であっても、問題なく対処することができるだけのものである。特殊部隊の隊員たちは、装備と訓練によって得た、絶対的な自信を持っているのだ。
だが、その絶対的自身は、VIP参加者たちがいる部屋に入ったことで揺らぐことになる。
「ゴー」
特殊部隊の隊員たちがVIP専用の部屋に到着し、直ぐに制圧用の陣形を組むと、瞬く間に突入した。
(これは一体)
特殊部隊の隊員たちは困惑に襲われた。
室内は真っ暗であり、一メートル先すら見ることができない。
隊員たちは各々銃器に取り付けられたライトに電源を入れる。
しかし、それでも、先を見ることは困難なほど、視界不良は深刻であった。
(これは…)
元探索者のテロリストは当然、スキルを持っている。
だが、それにしては異常なまでに強力なスキルであった。
多くの隊員は警戒心を強める中、一人、部隊を率いる隊長だけが戦闘態勢を維持しつつも、警戒のレベルを引き下げた。
「総員、警戒レベルを下げろ。これは敵のものではない」
「しかし…」
「俺は警戒レベルを下げろと言った。 仲(・) 間(・) 、(・) 全(・) 員(・) を(・) 殺(・) す(・) つ(・) も(・) り(・) か(・) 」
声量はそのままに、声色だけが深く強くなる。
特殊部隊を率いる隊長となるには、厳正な試験をクリアする必要があり、その項目の一つには並み外れた強さがある。
この部隊において、最強の存在は隊長であり、作戦行動中において、その言葉は何よりも重い。
隊員たちは無言のまま、発動していたスキルを一つずつ解除していった。
「よくやった。これで死なずに済んだな」
隊長の額には汗がびっしりと張り付いていた。
それもそのはず、部屋中を覆う暗闇の正体をただ一人、知っているからである。
(まさか、生で見ることになるとはな)
テロ対策部隊の隊長に開示される情報は膨大だ。中にはSランク探索者のスキルなども含まれており、この黒い霧はとあるSランク探索者のスキル情報と合致していた。
【深淵】、それがSランク探索者、篠森葵が有する最上級スキルの一つであった。