作品タイトル不明
第百四十一話
後日、俺のもとにBランクの探索者カードと証明書が届いた。
(これがBランク探索者の証か)
俺は封筒から探索者カードを取り出すと、床に座り込んで、まじまじと見つめる。
Bランク探索者のカードは銀色で縁取りをしており、Aランクになるとその色が金になるそうだ。
Sランクに関しては情報がないので分からないが、今はそれよりも目の前のカードを見ることに集中したかった。
(すっげえ)
本当に俺が、Bランク探索者になったのだ。
特にとりえもなかった普通の人間の俺が、こんな短期間でBランクに上がったのである。
まず、俺は若い頃、それこそ夢と現実のギャップを感じ始めた段階で、探索者としては生きていけないと思っていた。
才能がない者が、探索者として安定した生活を目指すことは本当に厳しい道であると言わざるを得ない。
実際、スキルを得る前ではあるが、かなり上手くいったとしても、なんとか老後の資金を貯めるところまで行くのが限界だと考えていた。
(それがもう、Bランクだ)
厳しい戦いがなかったわけではないし、練習もきつくなかったわけではないが、個人的には苦労したという感覚はあまりない。
子供の頃、叶えたかった夢がこの手の中にあると考えると、不思議と安心感が生まれた。
興奮と安堵が綯い交ぜになりながら、俺が小一時間ほどカードを眺めていると、ヴァルが服を引っ張ってくる。
「それ、おもしろい?」
当然の疑問である。
銀縁のカードを一時間近く、じっと眺めつづける四十間近の男性、誰であっても不審に思うこと間違いなしだ。
だが、そんな事実は今の俺に関係ない。
「夢だったからな」
それが全てである。
いや、本当はAランク探索者になりたかったのかもしれないが、それは本質的ではない。
正直、探索者になる夢というのは、俺の頭の中からほとんどなくなっていた。
勿論、探索者になった以上、Bランクまで上がりたい気持ちは強くあったが、それは社会的地位やお金の面で優位だからであり、あくまでも大人としての欲望が強くを占めている。
そんな風に思っていたが、実際には違っていた。
俺の中での探索者というイメージは、Bランク以上の探索者を指しており、Bランク探索者になることこそが純粋な頃に思い描いていた夢だった。
あまりにも単純であるが、根幹的な夢を叶えたからこそ、嬉しさが色褪せず、新鮮味を持って感じられるのだと思う。
「よくわからないけど、よかったね」
ヴァルの手が俺の頭の上に乗せられる。
(うん、なんか涙でそう)
正式にBランク探索者になったこともそうであるが、ヴァルの成長にも感極まりそうになる。
「それで、どうしたんだ」
俺の気持ちも落ち着き始めた頃、流石に気恥ずかしくなり、立ち上がってヴァルの方を見た。
「うん、だんじょんに、いきたいなって、おもって」
喋れるようになった影響か、ヴァルがダンジョンに行くことを自ら提案してくるようになったようである。
前は探索時にやる気は見せていたが、自ら提案してくることなどはまずなかったので、こういった部分でも情緒の成長を感じる。
(今日は東雲はいないが…)
仲間と言っても、必ず一緒に探索を進めていくわけではない。
ヴァルと二人でしっかりと連携を意識すれば、特に戦闘に大きな影響がないと思われる。
「危なくなったら、直ぐ撤退するからな」
「わかってる」
こうして、ヴァルと俺の二人でダンジョン探索することが決まった。