作品タイトル不明
第百三十四話
「次は連携の調整をしましょうか」
東雲の言葉に、俺は頷く。
第二十階層のうちで、実戦的な連携の確認をすることは、未到達の階層に行く際には、かなり重要だ。
特に相手は一対一でも問題なく倒せることが判明している相手であり、動きが遅いことも連携の確認には持ってこいだった。
三体目のゾンビを見つけた後、直ちに行動を開始する。
ヴァルが先陣を切り、ゾンビの攻撃に備えた。
「ア゛ァ゛ア゛————!」
ゾンビが槍を振るい、ヴァルが盾で防ぐ。
衝撃音がダンジョン内に響き渡った。
「よゆう」
ヴァルの持つ大盾とゾンビの巨槍、軍配が上がったのは、前者であった。
4メートル近い巨大な槍はぽっきりと折れてしまう。
「ア゛!」
ゾンビは苦し紛れに、穂先のない槍で攻撃を繰り出そうとしたが、ヴァルが大盾で槍を弾き飛ばしてしまった。
「今ですね」
東雲がいつの間にか、背後に回っており、両足を一刀のもと、切断する。
上半身が倒れ込むのと同時に、既に間合を詰めていた俺はゾンビの首を落とした。
♦♦♦
二、三度の戦闘を挟み、無事、第二十一階層に到達できた。
既に通路は縦横15メートルはあり、明らかに巨大なモンスターが徘徊することを想定したつくりとなっている。
ゾンビに続き、ここに徘徊するモンスターは【スライム】。
ゲームなどでは、ゾンビと同様、雑魚モンスターとされる存在だ。
(本腰入れないとな)
だが、俺は一切気を緩めていない。
長谷部ダンジョンの【ゴブリン】が異常なまでに弱く、第二十階層で相手にしたゾンビが巨人となっているように、続く二十一階層を徘徊するスライムの強さはBランクの領域となる。
スライムの直径は2メートルほど、重量も1トンはあると推定されていることから、徘徊時の動きは非常に緩慢であり、逃げた場合には振り切ることも容易とされている。
しかしながら、戦闘時には要所要所で機敏な動きを見せることや、形状を一定に保つ必要性がないため、搦め手や削る戦法が通じにくい点は、かなりの難点として挙げられた。
(さっきとは真逆なのがなぁ)
スライムは魔核を破壊することで、倒すことができる。
【フリーズ】以外にも、魔術はいやらしい戦法が多種多様に存在しているが、スライムのような弱点が一点に定められているモンスターには、俺の戦術的な汎用性は効きが薄い。
俺は僅かに憂鬱な気持ちになりながら、第二十一階層を進んでいくと、思ったよりも早く、スライムと接敵することになった。
「ヴァル、頼んだ!」
スライムがその図体からは考えにくい、素早いタックルを仕掛けてくる。
鈍く重い衝撃が響いた。
「だいじょうぶ」
風圧がここまで届くほどであったが、魔核によって強化されたヴァルの膂力は1トンのスライムの攻撃を受けても、びくともしないようである。
(問題は…)
スライムは身体の形状を一部、変化させた。
さしずめ、鈍器のようなものだろうか、一本の巨大な触手作ると、しなりを作りながらヴァルへと叩き込む。
「むだ」
ヴァルはその一撃を難なく躱して、大盾によるカウンターをスライムに叩き込んだ。
衝撃音がないことから、威力を大幅に減衰させているはずにもかかわらず、ゼリーの一部をぐちゃぐちゃに崩した時のように、スライムの身体の一部が削れる。
さらに、ヴァルは瞬時の判断で、細剣を用いて、巨大な触手を切断していた。
「むぅ、まだ」
ヴァルは少し、距離を取る。
スライムの弱点は魔核、一点のみである、魔核は身体の中央部分に存在しており、それ抜き取るか、壊すかする必要があった。
(ヴァルでも倒しきれないか)
彼女の強さが証明されつつも、単純な破壊力のみでは、効果が薄いことがわかってしまった。
剛の部分を担っているヴァルが削る程度に止まっている以上、魔核を抜き取りたい欲はあるが、この戦いにそんなことは言ってられない。
「【アイスランス】」
氷の槍がスライム目掛けて飛んでいく。
飛ばした数は合計10本、ヴァルが一時離脱するには十分な数だ。
(【身体強化】、【肉体強化】)
「東雲、いくか」
歩調を合わせながら、東雲と共に前に出る。
氷の槍が床に突き刺さったことで、若干ではあるが、スライムは動きを阻害されていた。
(今)
先陣を切った俺は魔刀を使って、強く振り抜く。
その結果、刃は容易くスライムの肉を裂き、魔核まであと一歩のところまで切り開いた。
「行きます」
俺が離脱すると同時に、東雲が無駄のない動きで、突きを放つ。
コツン。
軽く放たれたその一撃は、微かな音を立てながら、 当(・) た(・) っ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) は(・) ず(・) の(・) 魔核を打ち抜いた。
目を剥いた俺が疑問を口に出す間もなく、べちゃりとスライムの形状が崩れ、ゼリー状の肉が半透明の粘液と化す。
あっさりとした幕切れの中、綺麗に中心部を打ち抜かれた魔核が床に転がった。