作品タイトル不明
第百三十三話
俺はゾンビを斬った感触を思い出しながら、刀のあまりの切れ味に感嘆していた。
(この刀……いや、魔刀は凄いな)
刀型の魔剣、転じて魔刀とも呼べる、この武器は鉄塊すら両断しかねない。
以前、魔力を大量に供給し、一時的に吸収が止まっていた魔刀は、今も魔力を少しずつ吸収し、成長している。
圧倒的な軽さと異様なまでの切れ味は、兵器じみた危険さを感じさせた。
俺は一度息を吐いた後、刀を鞘に収め、ナイフに持ち替える。
そして、淡々と素材の剥ぎ取りを進めていき、最後に心臓付近にある魔核を取り出した後、アイテムバッグに収納した。
(デカいな)
これほどのモンスターともなると、魔核のサイズもかなりのものである。
ハイ・ライカン・スケルトンほどではないが、片手で持つには少し持ちづらいほどのサイズ感になっていた。
「進みましょうか」
休憩の終わりを告げる東雲の言葉に、気持ちを切り替えつつ、ヴァルを先頭に隊列を組み、再び第二十階層の探索していく。
体力の向上とダンジョン内が広くなっていることを鑑みて、小走りしながら通路を進んでいくと、通路の先にいる二体目のゾンビを発見した。
「もう一回、行ってくるわ」
試したい戦法があったので、二人にそう告げ、前に出る。
ゾンビの図体はデカいが、鈍重なモンスターであるため、今回の戦闘で、俺は搦め手を組み込んでみようと考えていた。
現状、俺から見て、ゾンビは弱いモンスターにしか見えないが、油断しきることはできない。
(一つ、厄介な点があるしな)
先程はあっさりと倒したが、俺の身長が170センチ程度なのに対し、3メートル以上なわけだから、ほぼ二倍の対格差がある。
また、槍を装備しているので、白兵戦のみを意識して正面切って戦えば、懐に入る難易度は高い。
その問題を解決するための別の戦法を、探索を進めていく過程で考えていた。
「【フリーズ】」
俺は先制で、対象を凍らせる魔術、【フリーズ】を発動させた。
「ヴァ!?」
【フリーズ】の発動先は目の表面である。
ゾンビがこちらを視認しているのは確認しているので、目の機能が存在している可能性が高い。
実際、ゾンビは視界を奪われ、身体を硬直させていた。
「続けて、【バインド】」
【バインド】を八つ同時に発動させ、短い時間だが、ゾンビの動きを完全に封じる。
【バインド】を後にした理由は、パニックになって暴れられるリスクを避けるためだ。
拘束に成功し、目を凍らした場合に、半狂乱になって暴れられればかえって、作戦がパーとなるリスクがある。
先に【フリーズ】で視界を奪い、硬直させ、複数の【バインド】で動きを完全に封じる。
ゾンビは知性が乏しいが、知性がないわけではない。
一定水準の思考のもと、行動を決定しているので、対人に有効な戦法はかなり通じるという読みであった。
(ちょっと、やりすぎ……ではないな)
ゾンビが完全に動きを停止させている姿を尻目に、俺は魔刀を抜く。
Cランク最上位クラスのモンスター相手であれば、【アイス・カタパルト】は強力無比な魔術であるが、今後、相手にする単体のモンスターはゾンビ以上の強さを秘めている可能性が高い。
ハイ・ライカン・スケルトンより更に強い相手、それこそ将来はAランク探索者になるのであれば、引きだしを増やしていくことは、得にしかならない。
勿論、東雲やヴァルとの連携を重視していけば、遠距離からの攻撃に役割が固定されるだろうが、余裕のある相手に戦術を試して、可能性を増やしていくことは続けていこうと思っていた。
(初見の時は確実性を取るがな)
どのような相手であっても、初見の相手にはリスクを排除した戦いを心掛けていく。
既にゾンビとの戦闘は、以前の攻略で済ませていたからこそ、俺は思いついた戦法を試す選択を取っていた。
「【身体強化】【肉体強化】」
ゾンビを拘束しているうちに、身体強化系の魔術の二重掛けを行う。
強化された身体で、10メートルほどを一歩で詰めると、魔刀でゾンビを一刀両断した。
前回同様、胴を両断し、頭にも一撃を入れる。
(こっちの方が、消耗は少ないな)
念のため頭を刺して、しっかりとゾンビが息絶えたのを確認した俺は、素材の剥ぎ取り作業に移った
ゾンビの魔核は砂毒猿のモノよりも全然高い値段で売れる。
大体が5~7万円程度であり、槍の穂に使われている金属など、他の素材と併せると一体倒すごとに大体10万円前後の収入になる計算だ。
(ここからは、ほどほどに倒すか)
モンスターの討伐は、基本的には制限はない。
高レベルの探索者が低レベル探索者が相手にするようなモンスターを乱獲して、狩場を独占していれば、協会から制裁を食らう場合もあるが、俺ぐらいの強さの探索者がゾンビを十体程度狩っても、大きな問題にはならないだろう。
(今回は、第二十五階層の攻略が目標だけどな)
攻略階層を第二十五階層にまで、進めていくのが、今回の探索の目標である。
レベルの壁を越えたのだから、より強いモンスターのいる領域にチャレンジしたいという思いもあり、事前に定めていた。
俺が素材を全てマジックバッグにしまい終えると、東雲が口を開く。
「次は連携の調整をしましょうか」