作品タイトル不明
第百二十九話
長野旅行、最後の日の朝食はレストランでバイキングを予約していた。
「うまそ~」
パン類やスクランブルエッグなどの洋食、おにぎりやみそ汁などの和食、チャーハンや春巻きなどの中華、他にも多種多様な食事が所狭しと大皿の上に盛られていた。
俺たちは各々好きな朝食を選択し、盛り付けていく。
東雲は和食、俺は洋食、ヴァルは兎に角、色々なメニューを皿の上に山盛り載せていた。
「「「いただきます」」」
席に着くとおのおののペースで食事を進めていく。
ヴァルは盛っている量こそ圧倒的に多いが、食べるペースも俺たちよりも圧倒的に速い。
朝食ということもあり、ぺろりと食べ終わったヴァルが、なぜか隣にやって来た。
「まりょく、ちょうだい(は~と)」
ヴァルがウインクをしながら猫なで声で言う。
ドラマやアニメなどの影響もあってか、変なことを覚えたようだ。
こんな風に魔力をねだってくることなど、今まではなかったことである。
俺はため息を心の中で押しとどめ、口を開く。
「…わかったから、あとであげるから、今は自分の席に戻れ」
「やった。ごしゅじん、だいすき」
俺もヴァルみたいな可愛い 子(モンスター) には、弱い部分がある。
信頼できる仲間でもあるのだから、あんな風に言われて断れるはずもなかった。
意気揚々と自分の席に戻ったヴァルは、直ぐに自分の皿を持って、追加の料理を取りに行く。
(どれだけ、食うんだよ)
さっき、魔力を貰うことを約束させたばかりにもかかわらず、ヴァルの意識は次の食事に向けられていた。
呆れが表情に出てきそうになるのも抑え、俺は隣に座っていた東雲に目を向ける。
「新幹線は14時35分出発だったよな」
「そうですよ。なので、小腹が空いた場合は駅で軽めに何かを食べて、後は駅弁でも買って、新幹線の中で食べませんか?」
(駅弁か…)
新幹線が止まる駅には大抵、かなりの種類の駅弁が売られている。
ご当地弁当は勿論、有名店のお高い弁当も売られている。いっそのこと、肉ばかりが入った弁当でガッツリ行くのもいいかもしれない。
自由度が高いので、駅で各々好きな弁当を買って、新幹線でゆっくり食べるというのは確かに名案だった。
「それ、いいな。ヴァルなんか5つぐらい食べそうだし」
下手にお店で食事をして、ヴァルがいつまでも居座っては困る。
むしろ新幹線の中で自由に食べさせた方が、彼女のことを考えても良いのかもしれなかった。
俺と東雲がヴァルのいる方に視線を向けると、彼女は皿に山盛りの料理を載せて、周りの客を驚かしている。
「それどころでは済まないのでは?」
ヴァルの様子を見ながら、東雲がクスリと笑う。
その笑顔に俺もつられて、笑うのだった。